他社が作れない感光材作り世界一 東洋合成工業・木村有仁社長(2-1)
他社が作れない感光材作り世界一
半導体製造に欠かせない感光材で世界シェアトップを誇る東洋合成工業。半導体の微細化・高機能化といった顧客が求める品質確保と安定供給に注力し、「他社が作れないものを作る」戦略が功を奏し、グローバルニッチトップ企業の地位を不動にした。常に時代の先を読むベンチャー精神は、創業家2代目の木村有仁社長に受け継がれており、「われわれの企業規模では数少ない機会を逃すわけにはいかない。常に先手を打ち、イノベーションを支える先駆けとなる」と陣頭指揮を執る。
ベンチャー精神発揮
--東洋合成工業の原点は
「父が1954年に創業した。始まりは蒸留精製技術の取得で、父が日比谷図書館(東京都千代田区)でドイツの科学雑誌に載っていた論文をもとに、自前で蒸留塔を設計し設備を作り上げた。父は起きているときは仕事に没頭し、部屋には学術書や設計図などが山のように積まれていた。知的好奇心が旺盛で何事もやり抜く気概を持っており、常に探求していたという印象だ」
--今では感光材メーカーとして欠かせない存在だ
「70年代に入り2度のオイルショックで売り上げが激減し、一気にピンチに追い込まれた。これをチャンスととらえ、半導体回路形成に使用されるフォトレジスト用感光性化合物の基礎研究に着手した。当時は半導体の黎明(れいめい)期で『これから伸びるらしい』ということから『これに賭ける』ことにした。大手化学メーカーもこぞって参入したが、水の中でも燃焼するという危険性や少量多品種で生産管理が煩雑なうえ、半導体業界は常に品質と価格に厳しいとあって開発を断念する企業が相次いだ」
「結果としてわれわれが残ったわけだが、企業規模からいって『人がやらないならやってやろう』というベンチャー精神が研究者に根付いていたからこそといえる。感光材は半導体が微細化する中で常に市場の最先端を歩み、今ではグローバルニッチトップに躍り出ることができた。当社を支える主力事業だ。『時代に必要とされるものを作る』『研究開発と技術を核にする』『諦めず、愚直に、誠実にやる』といった経営ポリシーのたまものといえる」
DX化進み需要急増
--新型コロナウイルスが流行する中で業績は
「2021年3月期は売上高271億6400万円(前期比11%増)、経常利益29億8200万円(45%増)と増収増益だった。半導体など電子材料業界は、コロナ禍にあってDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速に加え、リモートワークの普及、パソコン需要の増加などにより需要がすごい勢いで伸びている。売り上げの6割を占める感光材だけでなく、化成品や物流事業など全てで収益は増加した」
--この勢いは当面続くのか
「今後も伸びる余地は十分にあると考えており、22年3月期は売上高300億円(11%増)、経常利益34億円(14%増)を予想している。23年3月期を最終とする5カ年中期計画『TGC300』の数値計画(売上高300億円以上、経常利益30億円以上、売上高経常利益率10%以上)も前倒しで達成できるとみている」
「というのも、TGC300策定時と今の事業環境は全く異なるからだ。DX化はさらに加速し、米中対立や世界的な半導体不足も続く。半導体メーカーは増産に乗り出しており、感光材市場も大きくなる。われわれも供給を加速的に増やす体制づくりに取り組んでいる。今期中に次期中期計画を策定することになるが、半導体需要の加速という上積み分を盛り込む。ライバルより技術優位性があるので勝ち残れると自負しており、それだけアグレッシブな計画になる」
品質と生産性両立しダントツ経営
--半導体業界から支持される強さの秘訣(ひけつ)は
「最先端回路の線幅はナノ(10億分の1)メートルレベルで、そこで使われる感光材も高純度が求められ、それだけ品質管理も厳格でなければならない。そのため問題が発生すると原料から最終製品まで、さらに機械や製法、携わった人も過去履歴を集めてデータを徹底的に解析し原因を洗い出す」
「ただ先端材料は品種が極めて高度化し、かつ少量多品種なので人の感覚だけで洗い出すことは難しいためデジタル化を進めている。意思決定のサポートとしてAI(人工知能)を導入したり、RPA(ロボットによる業務自動化)も取り入れたりしていく」
若手の教育に注力
--安定供給も強みだ
「半導体市場の成長に備え、生産能力の増強を継続的に実施してきた。さらに約70億円を投じて千葉工場第4感光材工場(千葉県東庄町)を20年10月に竣工し本格稼働した。最先端の半導体微細化技術『EUV(極紫外線)』に対応する感光材を生産する拠点だ。感光材のほか、高純度溶剤も先端半導体向けに安定供給する計画を進めている。顧客が求める品質レベルを大量供給できるためで、評価も高い。このように常に大型プロジェクトを3件ほど検討している」
--課題は
「強みをさらに磨く。現在のTGC300期間中も、半導体の微細化・高機能化に応えられる高性能な機能性材料を供給するため、蓄積してきた高純度合成力、精製技術に一層磨きをかけてきた。今後も顧客品質を満たす安定供給体制を強化し、人・組織・事業の成長に向けたプランニングに取り組む。われわれが目指すのは顧客課題、技術課題を一つ一つ真摯(しんし)にとらえ、超高品質と生産性を両立できる世界ナンバーワンのダントツ企業になることだ。実現しないと半導体需要増というチャンスをとらえる戦略も『絵に描いた餅』に終わる。実現に注力するしかない」
--人材育成については
「生産性向上に向けた人材育成の強化は必須だ。最近は年間30人ほど新卒を採用している。800人規模の会社なので約5%に相当し、規模感としては大きい。若手教育に力を入れているからで、入社からの3年間で一通り学び終え、5年生、つまり20代後半で管理職候補を育てるというスピード感をもって取り組んでいる」
「当社は平均年齢が約35歳という若いハイテク企業だ。若手には活躍の場を与えたいので、成果を上げた人にはどんどん仕事を任せている。昔の世代は、頑張って給料が上がり昇進することでモチベーションを高めることができた。今の若い世代は社会的意義やコミュニケーション、周りからの感謝という視点も大切にしている。ただ社員に話を聞くと渇望感が強く、現状に満足していない。『もっとこうしてほしい』『こうしたい』と待遇だけでなく、品質安定や設備増強、新規ビジネスといったアイデアを持っている。全部聞き入れると投資額は300億円(22年3月期の設備投資額は35億円)に膨らんでしまう。足りないものばかりなので要望が多いのは分かる。投資配分が悩ましい」
先手打つこと大切に
--ベンチャー精神は今も受け継がれている
「ベンチャー企業は変化点が多いほどチャンスも多い。コロナ禍の今がまさにその機会なのでオーナー企業としての強みを生かす。数年先の事業の方向性さえ間違っていなければいい。重要なのは数少ない機会を逃さないこと。そのためには先手を打つことであり、先にリスクテークする。材料は一度採用されるとなかなか代替されず、次のチャンスにつながりやすい。だから2世代先を狙っている。そのためには業界のサプライチェーン(供給網)の変化をよく見るようにしている。大学や研究機関にも足を運び、技術トレンドなど情報収集に努めている」
--業績好調で投資家の評価も高い
「TGC300の前倒し達成など好業績を反映して、21年3月期の年間配当を20年3月期の20円から30円に増配する計画だ。ただ株主還元は安定配当を基本とする方針は変わらず、利益水準や今後の成長性、税務バランスなどを総合的に判断して決める。半導体市場の成長性から機関投資家から買いが入り、株価も上昇している。グローバルニッチ企業なので株式市場で人気があるうちに、当社のファンづくりの一環として個人投資家に訴求し認知度向上に取り組みたい。発信を増やし、これからのDXイノベーションを支える高品質・安定供給の企業だと分かってもらえるように社員や工場などを積極的に露出し、東洋合成工業のイメージづくり、見える化に力を入れる」
【プロフィル】木村有仁
きむら・ゆうじん 東京理科大機械工学科卒。2001年東大大学院新領域創成科学研究科環境学専攻修士課程修了。同年NEC入社。03年東洋合成工業入社。06年米サンダーバードグローバル経営大学院修了、07年取締役、常務を経て12年6月から現職。45歳。千葉県出身。