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任天堂もゲームでプログラミング教育推進 IT人材確保へ関連ビジネス活況

SankeiBiz編集部

 2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化され、中学校では今年度からより高度な技術や深い思考が求められるようになった。子供のプログラミング教育はよく水泳の授業にたとえられる。誰もがクロールで好タイムを出す必要はないが、確実に体力をつけられる上、いざというときに役立つ可能性があるためだ。プログラマーを目指さない人も論理的思考力が鍛えられ、将来の仕事に生かせるかもしれない、というわけだ。ゲーム大手の任天堂は今月11日、遊びながらゲームの仕組みを学べるプログラミング学習ソフトを発売。学習塾の栄光も専門の教室を展開するなど、プログラミング教育関連のビジネスは活況を呈している。

転ばぬ先の…

 人型のキャラクターを動かし、頭上にあるリンゴを取る--。与えられた課題に対し、コントローラーを操作してみるが、キャラクターは左右に動くばかりで、ジャンプしてリンゴを取るような動作はできない。困っているとナビゲーターが現れ、「このゲーム…実は……作りかけなんです!!」と種明かしをする。任天堂の主力ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」用のプログラミング学習ソフト「ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング」の冒頭のシーンだ。

 プログラミング画面と、プログラムによってできたゲーム画面を切り替えながら遊べるのが特徴だ。プログラミングの画面ではネットワークを構成する要素「ノード」を、さまざまな姿と役割を持つ「ノードン」というマスコットに置き換えて可視化し、コンピューターにおける入力と出力の関係を分かりやすく教える。

 冒頭のシーンは、コントローラーのスティック操作に関わる「スティックノードン」と人型のキャラクターを表示させる「ヒトノードン」の間に、スティックを左右に倒すと同じ方向にキャラクターが動くという約束事があるため、プレイヤーは思うように動かせた、ということになっている。

 「これを参考に『ボタンノードン』を追加して、特定のボタンを押したときにジャンプするように『ヒトノードン』を設定すればリンゴをとることができますよ」。プログラミングの初心者でも理解しやすい説明とともに、プレイヤーを次第にプログラミングの世界に誘う設計がなされており、ゲームの完成まで導く。失敗を避けようとする子供にも配慮された設計だが、プログラミング言語でコードを書き、エラーの原因を見つけ出しては改善するのも訓練の一つとされる実際のプログラミングと異なり、いわば“逆転の発想”と言える。

 任天堂は2018年から、ダンボールで工作した釣り竿やピアノとNintendo Switchのコントローラーを組み合わせて遊ぶ「Nintendo Labo」シリーズを販売。その体験会で簡単なプログラミングに挑戦した人たちの反応が良かったことから「はじめてゲームプログラミング」では初心者のフォローに注力し、「完成させる体験」の提供を心がけたという。

 このソフトを通して、小中学生らはどのように考えや態度を変えていくのか。任天堂の広報担当者は「本作を楽しく遊びながらゲームを作っていくだけで、プログラミングというものが自然と理解できるようになると考えています。タイトルにもある通り、まずはプログラミングが初めてという方に、このソフトでプログラミングを始めていただけるきっかけになればありがたいです」と話し、“逆転の発想”が間口を広げることに期待を込める。

プログラミングで意外な成長

 子供を対象としているとはいえ、失敗から学ぶことを促す勉強法も重要だ。学習塾の「栄光ゼミナール」で知られる栄光は、東京都内を中心に11教室で、幼児~小学生向けにプログラミング教育専門の「栄光ロボットアカデミー」を運営している。学習塾と比べれば規模は大きくないが授業内容は本格的だ。小学3~6年生は定員8人のクラスで、教育版のレゴブロックを組み立てて、自作のロボットを動かし、ロボットに取り付けたセンサーがどのように役立てられるかなどを学ぶことができる。

 栄光によると「授業のほとんどはトライ&エラーのスタンスです。自分でロボづくりやプログラミングをして、その挙動から次の課題を見つけていくことになっています」(広報担当者)。当然、失敗を嫌がる子供もいるが、ロボットのプログラミングでは「失敗するのは当たり前だ」と教え、「次にこうしたらどうなるか」と関心を持たせる授業で子供の意識を変えていくようにしている。「将来に役立つからプログラミングを学ばせたい」と入塾させる保護者が少なくないという。トライ&エラーの授業が意外な成長につながることもある。

 「保護者の方から聞いた話ですが、以前は悪い点数のテスト用紙をランドセルに隠していたのに、悪い点数でも見せるように態度を変えたそうです。『この間違った問題はこうすると正解になるんだ』と自分で説明できるようになったから、ということでした」(広報担当者)

 プログラミング教育推進の主な理由として、論理的思考力の育成や、2030年に最大79万人のIT人材が不足する見通しが挙げられている。子供たちの意識改革には政府が目指す教育改革を超える価値がありそうだ。

お金をかけずに無料ソフトで

 ゲームソフトや塾にお金をかけずとも、子供向けの無料プログラミング学習ツールで学ぶこともできる。米マサチューセッツ工科大が開発した「Scratch(スクラッチ)」は、「前に歩く」「ニャーと鳴く」などの命令が書かれたブロックを組み合わせ、画面上のネコを意図した通りに動かすことでプログラミングの基礎を学ぶソフトだ。パソコンとネット環境さえあれば個人でも無料で利用できる手軽さもあり、多数の小学校で採用された実績を持つ。

 「プログラミング的思考」を学ぶという小学校の授業形式は学校によっても異なり、パソコンを使わず、カードやボードゲームなどを用いる「アンプラグド・プログラミング教育」を採用するケースもあるという。2022年度からは高校の「情報I」でプログラミングが必修化されるが、小学校時代に実際にパソコンを触った経験があるかどうかによって、教育格差が拡大する懸念も指摘されている。

 「Scratch」のほか、マイクロソフトの「MakeCode」や「教育版マインクラフト」、ソニーの「MESH」、江崎グリコの「グリコード」など各社から有料・無料のプログラミング学習教材がラインナップされているが、こうした教材を活用し、自宅学習で補えるかどうかが、格差是正の鍵を握っているともいえそうだ。

 一方、本格的にプログラミングを学びたい大人向けには、オンラインで現役プログラマーの指導を受けるサブスクリプション型のサービス「SAMURAI ENGINEER Plus+」(SAMURAI)などのビジネスも登場している。年齢に関係なく積極的にプログラミングを学ぶ機運が高まりつつある。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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