上に物言えない企業風土に株主・政府との距離…東芝再建を待ち構える課題
東芝の25日の定時株主総会で、永山治取締役会議長ら2人の取締役再任が否決された事態は、株主の怒りの表れといえそうだ。質疑では、「物言う株主」への圧力疑惑や不正会計問題で明らかになった「上に物を言えない企業風土」が改善されていない問題への追及が相次いだ。株主との関係や政府との距離感を見直しつつ、再建を図るには、課題が山積している。
「東芝の調査報告書を読んで、平成27年の不正会計問題と同じ香りがした。社員が持つ独りよがりな価値観を改善する機会だったのに生かせなかった」
出席した株主からの質問は、東芝の企業体質への問いかけから始まった。綱川智社長は圧力疑惑は現場の社員の知らないところで起きたことなどを説明したが、その後も体質改善を訴える声は続いた。
東芝は不正会計問題で、「チャレンジ」と称して上層部が現場に対し、過剰な利益計上を求めていた実態が露見。歴代3社長の引責辞任につながった。
ある東芝OB(63)は「達成できないと分かっていてもいい事業計画を作ってしまうところは社内にあった」と証言。無理な計画を掲げる人ほど評価されやすかったと振り返る。
翌28年には、米原子力発電子会社の巨額損失が発覚し、海外子会社へのガバナンス牽制(けんせい)が働いていないことが問題になった。これが原因で、東芝の財務は急激に悪化した。
上場廃止を避ける切り札として、東芝は半導体子会社の売却を決断。経済産業省などの奔走もあり、日米韓連合への売却が決まったが、共同出資する米国企業との係争が長引き実現が大幅に遅れ、東芝は急遽(きゅうきょ)、6千億円の増資に踏み切った。
短期的な利益を求める物言う株主らは東芝の変わらぬ企業体質をつついた。東芝は社外取締役を増やすなど経営透明性を確保してきた一方、株主還元を繰り返して投資余力をそがれた。
現在の株主構成は2割超を物言う株主が握る。ここにきて、経産省と一体となって株主の権利を阻害した疑惑が浮上し、株主側の東芝経営陣に対する信頼は再び地に落ちた。
東芝が抱える課題は体質改善以外にも、取締役会の機能回復や成長戦略の見直しなど多岐にわたる。前進するには、物言う株主との対立解消が不可欠だ。
ただ、経済安全保障の観点から、政府の後ろ盾も得る必要があるだけに難局は続きそうだ。「われわれは仕事上、経産省とコミュニケーションを取ることは合理性がある」。綱川氏は25日、こう説明した上で「圧力問題で疑義のあったコミュニケーションは改善する」と約束し、株主を尊重する姿勢も示した。(米沢文)