医療ベンチャー、がん検診革新 尿判定やAI活用「ウィズコロナ」に対応
学術研究の成果などを事業化した大学発ベンチャー企業が、がんの早期発見や検診負担を軽減する新技術を相次いで提案し注目を集めている。尿からがんのリスクを判定したり、人工知能(AI)が診断を支援するなどの高効率の検診手法だ。新型コロナウイルス流行に伴う在宅勤務や職域検診の延期などでこれまでのような健康管理がままならない中、ベンチャー企業による検診手法の革新は「ウィズコロナ時代」のがん対策として定着していく可能性もある。
外出せず「1次検査」
「サービス開始が新型コロナウイルスの大流行と重なり、検査の申し込みや問い合わせが殺到した」。こう話すのは九州大学発ベンチャー、HIROTSUバイオサイエンス(東京都千代田区)の広津崇亮社長だ。
同社は、尿に含まれるがん特有のにおいを線虫がかぎ分けることでがんの発症リスクを判定する検査サービスを事業化。令和2年1月から医療機関向けに提供していたが、今年2月に専用キットを使って自宅で検査できる新サービス(1万2500円から)を始め、コロナ禍で大きな反響を呼んでいる。
一度の検査で胃がんや大腸がんなど15種類に対応し、「ステージ0」「同1」の早期がんも判定できるという。
当初は手作業で検体を調べ、検査員1人当たり年間1000人程度しか対応できなかったが、新たに大和酸素工業(松山市)と共同で線虫の自動解析装置を開発。検査処理能力を50倍に引き上げた。
外出自粛で検診をためらう人も念頭に、広津社長は「1次検査として使ってもらい、その結果を受けて医療機関で受診することで、命を落とす人が一人でも少なくなってほしい」と新サービスの利用を促す。
東京大学発医療機器ベンチャーのリリーメドテック(東京都文京区)は、乳がんの検診時に女性を苦しめていた痛みから解放する新装置を開発し、5月から受注を開始した。
乳がんの検診装置として一般的なX線撮影の「マンモグラフィー」は2枚の圧迫板で乳房を挟むため強い痛みを伴ううえ、撮影した画像には乳腺も腫瘍も白く写るため、経験を積んだ医師でないと、がんを見抜けない課題があった。これに対し、新装置「COCOLY(ココリー)」は受診者が装置上でうつぶせになり、所定の穴に乳房を入れるだけで検査できる。穴と同じ大きさのリング状の超音波診断機器が上下に動いて乳房内部を画像撮影する仕組みで、検診時の痛みは全くない。
乳がんの超音波画像診断装置には乳房にエコーなどの探針器(プローブ)をあてながら動かすタイプもあるが、検査の度に常に同じ角度で画像を撮ることは難しい。その点、常に穴に入れた同じ状態で乳房全体を撮影できる新装置は部位の撮り漏れが起きず、優れた経過観察診断ができるという。
新装置の価格は通常のマンモグラフィーの2倍超と割高だが、結婚や出産、育児など女性の大事な選択肢を「乳がんで狭められることがない世の中を作りたい」と、東志保社長は普及に意欲を示す。
現場負担減で高精度
一方、がん検診を行う医師らのサポート役として期待されるのが、東大発のエルピクセル(東京都千代田区)などが開発したAI診断だ。
胸部X線画像から肺の内部のできものなどによる「肺結節」を効率的に検出する診断ソフトで、既に医療機関に販売。AIの一種であるディープラーニング(深層学習)技術により、肺がんや肺結核などが疑われる肺結節の画像診断の精度が、医師単独の判断に比べて放射線科専門医の場合で9.95%、非専門医で13.1%向上するという。
また、医療ベンチャーのAIメディカルサービス(東京都豊島区)も、来年の実用化に向けて、内視鏡で撮影した画像からAIががんを見つけ出す技術を開発している。
コロナ対策で医療従事者の負担が大きくなる中、AIによる診断支援はがん検診の質の向上・維持に大きく貢献しそうだ。(松村信仁)