今日から! 食品ロス削減へ

コンポストに事業ごみ…身近な場所で食品ロス改革

吉田由紀子

 いま、世界で大きな問題となっている食料品の大量廃棄--。環境省によると、日本では年間600トンもの食品ロスが発生している。本来は食べられるのに廃棄されてしまう食べ物を「食品ロス」と呼んでおり、このうち家庭から出る食品ロスは276万トン(2018年度)にものぼる。1人あたりの年間廃棄量は47kgで、この数字は、1人あたりの年間の米消費量(54kg)に相当する。これほど大量の食品を私たちはごみとして捨てているのである。年々減っているものの、日本はまだ「食料廃棄大国」といって過言ではない。

 2015年、国連サミットにおいて「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された。そこには2030 年までに「小売・消費レベルにおける世界全体の一人あたりの食料の廃棄を半減」「収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」といったビジョンを示している。

 また、2019年10月には、日本で初となる「食品ロス削減推進法」も施行されている。

 こういった状況を受けて、食品ロス削減への取り組みが着実に増えている。その様子を4回シリーズでお届けしたい。第1回は身近な場所で行われている活動をご紹介する。

 バッグの中で生ごみを堆肥に「都市型コンポスト」

 毎日、台所から出る生ごみや食べ残し。統計によると、日本人は1日に茶碗1杯分の生ごみを捨てている。これらは可燃ごみとして回収され、焼却場で処分される。膨大な燃料費がかかるだけでなく、排出する二酸化炭素が温暖化の要因にもなっている。

 ひと昔前は、生ごみは家庭で堆肥や飼料として再利用していた。現代でもコンポストを使って同じことが可能である。コンポストとは、家庭で出る生ごみ、落ち葉、下水汚泥などの有機物を、微生物の働きによって発酵・分解させて堆肥にする容器のことだ。昔から伝承されてきた日本の大切な知恵である。

 食品ロス削減に活用できるコンポストだが、残念ながら問題点がある。それは、設置するにはある程度広い場所が必要という点。さらに、こまめに手入れをしないと臭いや虫のトラブルも起こってしまう。そのため、初心者には少し扱いづらいものだった。

 こういった問題をなんとか解決できないか。そう考えた末に開発された新型コンポストが、話題を集めている。LFCコンポストバッグである。

 文字通りバッグ型になっており、高さ37cm幅50cm奥行21cm(持ち手は含まず)。ベランダに置けるサイズになっているのが画期的だ。バッグの素材には国内で廃棄されたペットボトルから作った再生生地を使用しており、何度も繰り返し利用できる。

 このコンポストバッグを開発したローカルフードサイクリング株式会社に取材を行った。同社代表のたいら由以子さんは、20年以上前から安心で安全な食の実現、地域での栄養循環に取り組んでおり、研究を重ねてコンポストバッグの開発に成功。2020年1月に発売したところ、利用者が2万人を超すヒット商品になった。

 「長年、都市部で使えるコンポストを研究してきました。バッグなら広い庭がなくても、マンションのベランダなどで使ってもらえます。生ごみを堆肥にするには微生物の分解力が重要ですが、分解を促進するために、独自の基材を使っています。すべて自然素材です。また、コンポストで面倒なのは外部から虫が侵入する問題です。そのリスクを最小限に減らすため完全密閉が可能な特別仕様のファスナーを使用し、虫の発生を防いでいます」(ローカルフードサイクリング株式会社 代表取締役・たいら由以子さん、以下同)

 使い方は簡単だ。前日に出た生ごみ(400グラム程度)をバッグに入れ、少しかき混ぜてファスナーを締める。1分もあればできる簡単な作業だ。その後、3週間ぐらい寝かせて熟成させると堆肥ができあがる。早く分解できる基材を使っているため、堆肥ができるまでの期間が短いのが特徴で、従来のバケツ式コンポストに比べて、分解速度は21倍にもなるという。

 また、購入者へのサポートも充実している。使用時に困ったことがあれば、コンポストの専門家にLINEで気軽に質問することができる。

 「今は生活の場が自然と分断されており、農作物がどこで栽培され、どうやって家庭に届くのか。その流れが分かりにくい社会になっています。結果、食べ物のありがたみを実感できないようになり、簡単に捨ててしまうのだと思います。少し前までは生ごみを堆肥や飼料にして循環させていました。その良き慣習を現代に再構築していきたい。地域で完結する『半径2km圏内の栄養循環』を作りたいと考えています」

 年間約4トンのコーヒー豆のカスが再利用でほぼゼロに

 家庭ごみ以上に問題になっているのが、外食産業などから排出される事業系のごみである。未使用の食品も含め大量のごみを排出しており、環境への負荷が問題視されている。大規模の飲食チェーンでは、生ごみをメタン発酵させてバイオマス発電を行う企業が、少しずつではあるが増えている。一方、小規模店では、コストと手間がかかるため、ごみとして回収してもらうしかない状態だ。

 しかし、中には知恵を絞って事業ごみを大きく削減した店もある。

 福岡市に3つの店舗を持つ「マヌコーヒー」ではコーヒーを淹れた後の豆カスを堆肥に変えて再利用している。以前は、年間に約4トンもの豆カスを事業ごみとして排出しており、多大なコストがかかっていた。そのため、この問題をなんとかしたいと苦慮していたのである。

 「以前から店で使う紙コップやプラスチックカップ、ストローなどは業者に回収してもらい、リサイクルしていました。しかし、コーヒーを淹れる際に必ず出る豆カス、焙煎後に出るチャフ(薄皮)の処理は私たちの長年の課題でした。なんとか再利用できないかと、店頭に使用後のコーヒー豆を置いて、お客さんに自由に持ち帰ってもらうようにしたのですが、残念ながら反応は薄かったのです。そんな折、ある人が『困っているんですか?』と声をかけてくれました。聞けばその人は、土壌研究で有名な研究所の方だったのです」(社長の福田雅守さん、中澤豪助さん、以下同)

 それは、東京大学、鹿児島大学を経て九州大学大学院(農学部)教授などを務めた金澤晋二郎所長が運営する金澤バイオ研究所だった。金澤さんは土壌微生物学の分野では第一人者である。同所は多彩な研究を行っているが、中でも独自の技術で肥料を作り出すことでは、高い技術力を持っていた。マヌコーヒーは、この研究所と連携をしてコーヒー豆カスの再利用に取り組んでいく。

 「コーヒー豆カスは、そのままでは肥料にならないそうですが、金澤バイオ研究所が開発した『HT菌』をはじめ、米ぬか、かき殻、大豆おから、茸菌床、竹パウダー、ビール麦芽粕、草などを混ぜることによって肥料にすることができたのです」

 HT菌(=Hyper Thermophilic Bacteria)とは、高熱にも耐える細菌の働きにより、約90度の熱で原料を発酵させる金澤バイオ研究所独自の手法である。病原菌や雑草の種子が死滅するので安全な堆肥になり、完熟しているので匂いも気にならないという。

 「試作を始めてから3年かかりましたが、2018年10月に約6トンを製造し、『マヌア肥料』の名で販売したところ、完売するほどの人気になったのです。おかげで以前は年間約4トンも捨てていたコーヒー豆カスは、今ではすべて再利用しており、コーヒー豆カスの廃棄を限りなくゼロに近づけることができました」

 このマヌア肥料は人気が広がり、一般家庭だけでなく、今は農園からも注文が来るようになっている。また、店鋪でも肥料の効果を検証してみるため、昨年から農地を借りて野菜を栽培。できた野菜は店頭で販売しており、とても好評だという。

 「福岡市喫茶業組合の平田さんから、ローカルフードサイクリングのたいらさんをご紹介いただきました。コーヒー豆カスを基材にして、自社でも堆肥が作れないかと実験しているところです」

 マヌコーヒー同様にコーヒー豆カスを堆肥として再利用するカフェは、日本中に増えつつある。今後の取り組みに期待したいところだ。

 環境省が今年3月に発表した調査結果によると、廃棄物全体の処分コストは年間2兆円を超えている。費用は言うまでもなく私たちの税金で賄われている。食品廃棄を減らしていくことは、環境面だけでなく経済効果も大きい。食品廃棄を減らす第一歩は、身のまわりの小さなムダを見直していくことではないだろうか。皆さんもぜひ取り組んでみてほしい。(吉田由紀子/5時から作家塾(R)

5時から作家塾(R) 編集ディレクター&ライター集団
1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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