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関西スーパー争奪 話題の激安オーケーの選択

 関西が地盤の中堅スーパー、関西スーパーマーケットの経営権取得をかけた争いが激化している。8月末、関西スーパーの筆頭株主、エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングが関西スーパーを傘下に収める方針を発表すると、9月3日には首都圏が地盤のスーパーで、第3位株主のオーケー(横浜市)が関西スーパーの買収方針を表明。争奪戦の行方は、関西スーパーが10月下旬に開く臨時株主総会で一定の結論が出る。企業価値の向上にどうつながるか、株主を納得させる説明が求められそうだ。

 ■顧客満足度1位

 今月中旬の昼下がり、東京メトロ・都営地下鉄の清澄白河駅(東京都江東区)近くの住宅街に立地する「オーケー平野店」は、買い物客でにぎわっていた。

 広さにゆとりのある通路の棚には加工食品や飲料が大量に陳列され、値札には店頭販売価格とともにメーカー希望小売価格からの割引率を表示。2~5割引きが中心だが6割引きもある。

 買い物を終えた近くの70代女性は「ほかのスーパーに行くこともあるが、加工食品はオーケーのほうが安く売られていることが多い」と話していた。

 昭和33年創業のオーケーは61年以降、特売で一時的に価格を下げてチラシで集客する戦略から、常に販売価格を抑える「Everyday Low Price(エブリデー・ロー・プライス、EDLP)」戦略にかじを切った。

 品ぞろえを絞った大量調達で仕入れ値を抑えるほか、平成30年4月には商品ごとに複数の業者から見積もりを取り、安値の業者から仕入れる取り組みも実施。大手メーカーの加工食品や飲料を安価で販売する仕組みをつくった。

 日本生産性本部による顧客満足度調査のスーパー部門では、昨年度まで10年連続1位を維持している。

 平成20年以来、実質無借金経営という強固な財務基盤も背景に、首都圏で130店以上を展開。令和3年3月期は新型コロナウイルスに伴う巣ごもり需要もあり、売上高が前期比16・8%増の5076億円と初めて5千億円を突破。本業のもうけを示す営業利益も32・8%増の303億円と大きく伸びた。

 ■関西進出の狙い

 オーケーは関西スーパーの買収について「成長のため、関東圏に次ぐ市場である関西圏への進出を検討してきた」とする。

 背景には人口減少や他業種の参入によるスーパー業界の競争激化がある。

 経済産業省の商業動態統計によると、国内スーパーの販売額は平成26年の13兆3699億円をピークに減少、5年間で約2700億円減った。一方、食品も扱うドラッグストアの販売額は増加を続け、同期間で約4割増の6兆8356億円に成長。昨年は巣ごもり需要で両業界ともに大きく伸びたが、市場の縮小は避けられないなか、安定した需要が見込める都市部での戦略の重要度は増している。

 オーケーは首都圏の主要部を環状に結ぶ国道16号の内側を中心に出店し、物流費の抑制と店舗作業の効率化を促進。店舗の大半が大阪、兵庫の人口集積地域にある関西スーパーを買収すれば、首都圏と同様に効率的な店舗運営が可能になると見込む。

 すでに関西では他地域からのスーパー進出が相次ぐ。東海地盤のバロー(岐阜県多治見市)は、平成28年に大阪府内への初出店となった寝屋川市の店舗でEDLPを導入。関東地盤で価格競争力の高いロピア(川崎市)も昨年9月の大阪府進出を皮切りに、今年9月までに大阪、兵庫、奈良の1府2県に6店舗を出店した。

 流通アナリストの中井彰人氏は、オーケーの関西スーパー買収方針について「(関西で)店舗を増やすためには最も効率的な選択肢」と指摘。「首都圏だけでなく、関西でも出店に最適な物件は不足している。関西の都市部に多数の店舗を持ち、上場企業として株式を公開する関西スーパーを選んだのでは」とみる。

 ■株主の判断は

 関西スーパーは臨時株主総会でH2Oの傘下入りを提案。出席株主の3分の2以上の賛成を得れば、H2Oの子会社になる手続きを進める。H2Oと関西スーパーが株式交換を行って統合・再編。現在の関西スーパーの株主は、イズミヤ、阪急オアシス、関西スーパーを子会社とする中間持ち株会社の株主になる。

 これに対しオーケーは、H2O傘下入りの議案に反対する方針。議案が否決されれば関西スーパー経営陣の賛同を得て、関西スーパーの上場来最高値と同じ1株2250円でTOB(株式公開買い付け)を行う。「すべての株主にとって損がない」とアピールする。

 オーケーの買収方針発表後、関西スーパーの株価は急騰。オーケーは得意の安価販売と、関西スーパーの強みである生鮮食品の取り扱いノウハウとの相乗効果を狙う。

 一方、H2Oは関西スーパーとの経営統合で関西圏の店舗展開とコスト競争力の強化で収益力の向上を目指す。

 H2O案かオーケー案か、判断は関西スーパーの株主に委ねられる。ただ、事業方針のほかに両社の買収手法の違いが判断を難しくしている。株主から直接株を買い付けるオーケー案に対し、H2O案は株式交換を活用するため株の価値が比較しにくい。関西スーパーは両社の提案を比較した上でメリットを株主に示す必要がある。

 岩井コスモ証券の清水範一シニアアナリストは「短期的な利益を求める株主には、オーケーの提案は魅力的。関西スーパーの取引先企業や金融機関などの大株主が長期的な成長のため、どちらの提案を選ぶかが注目される」と話している。(山本考志)