動画や音楽などの市場で拡大している定額サービス、サブスクリプション(以下サブスク)が、近年ブームに湧いているキャンプ業界にも取り入れられ始めている。家族連れなどで賑わう週末と異なり、利用客が激減する平日のキャンプ場利用を促す手段として、地域のキャンプ場が連携し、定額で「平日使い放題」とするサービスだ。一見、キャンプブームに乗った新規ビジネスモデルのように見えるが、「休み方と働き方」に関する提案を込めた“社会実験”という意味合いもある。
1万5000円で平日3カ月使い放題
過熱するキャンプブームによって多くの利用者で溢れかえる週末のキャンプ場。人気のキャンプ場ともなれば数カ月前から週末の予約が埋まることも、もはや珍しいことではない。一方で平日は利用客がぱったりと途絶え、鳥のさえずりが聞こえるほどに自然本来の姿を取り戻す。
この偏りを「日本の観光業の宿命」と指摘するのは、南信州エリアのキャンプ場やキャンプにかかわる企業で構成する「南信州キャンプセッション」の共同代表、久保田雄大さん(38)。海外での勤務経験がある久保田さんは、週末に一斉に休みをとり、観光地へと向かう日本特有の「休み方」の習慣について「週末の『オーバーツーリズム』(過剰な観光客)を招き、結果としてサービスの低下を招いている」と強調する。
そこで久保田さんらが発案したのがキャンプ場のサブスクサービス「CAMP LIFER」だ。ソロキャンパーを対象に、久保田さんが運営する「四徳温泉キャンプ場」を含む南信州エリアにある7つのキャンプ場を3カ月間平日限定で「使い放題」とする内容で、料金は月額税込み5000円で合計1万5000円。長野県が出資する長野県観光機構とも連携して展開している。昨年9月に第1期を開始し、今秋(9月1日~11月26日)ですでに3期目を迎えた。
第1期のユーザー45人に実施したアンケートによると、東京や愛知県など県外からの利用者が多く、県内の利用者は2人という結果に。多くの人が2回以上来場し、合計泊数は6泊までが大半を占めたが、「12回来場」「20泊以上」というケースもあった。「休日で混んでるキャンプ場とは全く違うゆっくりとした時間が感じられる」「今まで足を運んだことがなかった地域を知ることができた」と好評を博している。2期、3期と回を重ねるにつれリピーターも現れ、利用者は40人程度で推移している。
キャンプを日常生活に
CAMP LIFERの狙いはキャンプ場に対する新規需要開拓だけではない。大元にあるのは「キャンプ場を日常生活に近づけることができるか」という社会実験的な発想だ。
キャンプは新型コロナウイルスの感染拡大で、「密」にならないレジャーとして脚光を浴びた。同時に、仕事場所を選ばないリモートワークや、休暇と仕事を組み合わせたワーケーションという新たな潮流の中、キャンプ場は働き場所の選択肢のひとつにもなっている。
久保田さんが見据えるのは、さらにその一歩先にある「地方分散化社会」だ。久保田さんは「地方分散化社会にならないとサステナブルな社会は実現できない。平日は中央で働き、休日は地方の観光地で過ごすという従来の生活パターンではなく、多拠点生活や地方移住手前の暮らしといった部分を広げていきたい」と説明。サブスクサービスによってキャンプ場を平日自由に過ごせるフィールドとして提供し、キャンプ場から地域へと人が動くきっかけづくりにしようとしている。
「手応えを感じている」という久保田さん。ユーザーの要望に応え、今秋からは場内のワークスペースも使い放題の対象に組み込んだ。今後は各キャンプサイトでのリモート環境も拡充する予定で、「コロナによって生まれた好機。新しい発想をもった人たちに響いてくれたら」と意欲を語る。
首都圏近郊のキャンプ場でもスタート
こうした平日利用に限定したサブスク導入の動きは、首都圏のキャンプ場でも始まっている。手掛けるのはスタートアップ企業のSorich(東京都中央区)。11月から始まる千葉県のキャンプ場でのトライアルを皮切りに、12月に神奈川県、2月に埼玉県と順次展開する予定だという。現時点では提携しているキャンプ場は各県5カ所ずつ。ソロキャンパーを対象に月額6000円で1カ月から最長3カ月まで利用できる平日使い放題のサービスを提供する。
同社の代表取締役兼CEOを務める藤川祐大さん(27)によると、千葉県のキャンプ場で行うトライアルの参加者をSNSで募ったところ、募集開始後間もなく定員の50人に到達。南信州のケースとは異なり申込者の7割が県内からの参加者だといい、生活の身近なところでキャンプを取り入れようとするユーザーを獲得しているようだ。藤川さんは「平日のキャンプ場を使った新しいライフスタイルを提案したい」と話している。
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