予約客が連絡もなしに無断でキャンセルする。約束の日時になっても姿を現さないことから、飲食や旅行業界では「No Show(ノーショー)」と呼ばれている。準備した食材や人件費が無駄になってしまうため、店側にとっては死活問題。その無断キャンセル対策として共同購入型クーポンサイトへの出店が相次いでいるという。世間を騒がせた「スカスカおせち」問題を機に衰退したクーポンサイトが今なぜ、再び注目されているのか。
イメージは航空券の「早割」
「予約数に合わせてスタッフの数を調整できるので助かった」と共同購入型クーポンサイトのメリットを話すのは、しゃぶしゃぶ・すき焼き専門店「しゃぶ禅」渋谷店(東京都渋谷区)の青木俊二店長。クーポンサイトでチケットを購入している客はキャンセルすることが少ないため、あらかじめスタッフを効率的に配置できるという。
共同購入型クーポンサイトでは、居酒屋の飲み放題コースやホテルでの宿泊など、多様な商品・サービスを期間限定の割引クーポンとして販売。購入者はクレジットカードなどでクーポン代金を先払いし、提供を受ける仕組みだ。店側にとっても、売り上げアップや宣伝効果などが期待できることから一気に普及した。
ただ、共同購入型クーポンサイトには暗い過去がある。大手サイトの「グルーポン」で2010年に販売されたお節料理が「見本と違う」として苦情が殺到した「スカスカおせち」問題だ。クーポンサイトからの消費者離れを加速させ、その見た目から「ゴミおせち」とも呼ばれたあの騒動である。
さらに、リピーターにつながらない「クーポンハンター」と言われる客の来店が増えたことで、店舗側のサイト離れも進んだ。大幅な値引きクーポンを発行しても1回しか来店されないのであれば、店舗側のメリットは薄い。こうして一時は100以上あったサイトも今では数えるほどに。一世を風靡(ふうび)した往時の面影はない。
そのクーポンサイトが無断キャンセル対策として注目を浴びる契機となったのが、「事前購入型」と呼ばれる決済方法の採用だ。客が来店する前にチケット代金が飲食店に入金される仕組みで、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が全面解除され、ようやく光が差し込みつつある飲食業界や旅行業界で歓迎されている。
この仕組みを導入したのは、大手クーポンサイトの「LUXA」。共同購入型クーポンサイトが次々と業態変更や撤退を余儀なくされるなか、令和まで残った数少ない大手サイトだ。LUXAを運営するau コマース&ライフが今年1月から総合ショッピングサイト「au PAY マーケット」として体験型サービスの提供を開始。「事前購入型決済サービス」を取り入れ、飲食店約1360店舗のほか、ホテルや旅館約200店施設、サロンなどの美容店約1430店舗でも利用されている。
無断キャンセルは債務不履行や不法行為に該当し、店側は客に対して損害賠償を請求できる。このため無断キャンセル被害を保証するサービスや弁護士が回収を代行するサービスも登場しているほどだ。だが、無断キャンセルそのものをなくせるなら、それに越したことはない。コロナ禍の経営難で手元の資金が不足している飲食店にとっては特にそうだろう。東京・銀座の高級ステーキ店「神戸牛炭火焼ステーキ 銀座 煌(ファン)」の代表、黄金井崇さんは、共同購入型クーポンサイトの事前決済について「無断キャンセルリスクが下がり、とても助かっている」と強調する。
来年2月にLUXAのサービスを引き継ぐ大手通販サイト「au PAY マーケット」を運営するauコマース&ライフのライフスタイル事業部副事業部長、藤本公浩さん(36)は「飲食店では主に1~5割引きでチケットを販売しています。キャンセルされるリスクが低く、早く空席を埋めることができるため、未来の空席を埋めることができる店側も安く設定できます。航空券の『早割』チケットに近いイメージです」と話す。キャンセル率が低いことで店側にとっては食材のコントロールもしやすく、食品ロスの削減にもつながっているという。
ドタキャン被害額1.6兆円
経済産業省が2018年11月に公表した「No show対策レポート」によると、無断キャンセルによる飲食業界の被害額は年間で約2000億円と推計されている。予約全体に占める無断キャンセルの割合は0.9%。さらに予約日の1、2日前に生じるキャンセル(ドタキャン)も加えると発生率は6%強に達し、被害額は約 1.6 兆円 にも及ぶとみられている。
過去には刑事事件に発展したケースも。2019年6月、東京・有楽町の居酒屋(当時)に電話をかけ、1人1万3000円の飲食コース17人分を虚偽予約し、店の営業を妨害した男が、のちに警視庁に業務妨害容疑で逮捕されている。この店と都内にある系列店計5店舗(同)では同じ日に75人分、総額約51万円に上る予約が無断キャンセルされていたという。
経産省のレポートでは、一定の確率で発生する被害を穴埋めするため、店側が通常のメニュー料金に無断キャンセル被害額を転嫁していた例もあったとされる。「No Show」は一般の消費者にとっても看過できない問題といえる。
auコマース&ライフによると、飲食店が新規の客を獲得する場合、これまではグルメサイトに広告を出し、集客につなげるのが一般的だったが、広告費用は店側が毎月支払う必要のある固定費となり、消費が冷え込んだコロナ禍では負担になっていたという。
これに対し、クーポンサイトでは割引額の大きいチケットを販売することになり、店側の利益は減ってしまうが、単価あたりの利益率は上がっているようだ。クーポンサイトはチケットが販売されるごとに一定の手数料がかかる「成果報酬型」で固定費はかからないうえ、食材の在庫リスクや無駄な人件費も抑えられているためだ。
共同購入型クーポンサイトで起こった過去の騒動の反省も踏まえ、auコマース&ライフでは店舗側の審査を徹底。店舗を利用した消費者の反応にも常に注視しているという。auコマース&ライフの藤本さんは「No Show問題や食品ロスに悩む出店店舗さまとお客さま、われわれ運営会社の3者が満足できる社会をつくっていきたいです」と話している。
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