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廃棄された木材を燃料に…「木を無駄にしない」、滋賀でリサイクルの取り組み

 【となりのSDGs】

 建造物や家具、日用品など古くから日本人の生活に深く関わってきた木材。多くの木材がさまざまな用途で使われているが、その陰では大量の「木質廃棄物」が発生している。木材のリサイクルに取り組む滋賀県米原市の「ヤマムログループ」は、廃木材からバイオマス発電の燃料や紙製品などを製造。木材のリサイクル率100%を達成した。「一片の木材も無駄にしない」との理念のもと、廃木材を“変身”させている。

 あらゆる木材を再利用

 広大な敷地内に設けられた同グループの「山室木材工業」の倉庫には、荷物の保管や輸送のために使用されるラック状の「木製パレット」が2~3メートルほどの高さに積み上げられている。パレットを製造する工場内には、ブラジル人従業員の姿も。グループ全体で約千人いる派遣社員のほぼすべてがブラジル人。同社の敷地内には認可を受けたブラジル人学校があり、従業員の子息も通う。

 もともとはパレットの製造・販売がメインだったという同社が木材の再利用に取り組み始めたのは、国連の「SDGs」(持続可能な開発目標)という言葉がまだ世の中になかった約40年前。「使い古したパレットがいらなくなった」という取引先からの相談がきっかけだった。「それなら回収して再利用しよう」とティッシュペーパーやノートなど紙製品の材料となる「製紙用チップ」の製造に着手。その後、こうした木製チップのバリエーションが増えていき、「燃料チップ」や建材などに使われる「ボード用チップ」も誕生。不要になった木材を再利用する仕組みが整った。

 パレットや竹や生木…。同社が回収する木材はさまざまだ。業者だけでなく、個人が庭で剪定(せんてい)した植木や不要になった家具も回収するなど「あらゆる木材を有効活用している」と総務部の梅田隆利係長は話す。

 米原市と協定を結び、空き家解体の際に出る廃木材や災害時の木質廃棄物の回収も行っており、平成30年6月に同市内で竜巻が発生した際も現場で散乱していた木材が木製チップとして再利用されることとなった。

 木材はすべて余すことなく使われ、リサイクル率は100%。同社の工場で運び込まれた木材は粉砕機などを使って細かく砕かれ、高品質な木製チップに生まれ変わる。

 エネルギーから果物まで

 燃料チップは同グループのバイオマス発電所や木製品を乾燥させるボイラーなどのエネルギー源としても使われている。総務部の小野清隆部長は「いらなくなった木を生かしつつも、環境に配慮したエネルギーを作り出すことができる」と強調する。

 ユニークな取り組みなのが、燃料チップを熱源とした温室ハウスでの果物栽培だ。グループ会社が同県長浜市内で3棟の木造農業ハウスを構え、マンゴーなどを栽培している。寒さが苦手のマンゴー。冬場は降雪も珍しくない同市内では栽培が難しいが、温度を5度以下にしないように調節することで、栽培に成功した。

 ブランド名は石田三成の出生地にちなみ、「みつなり」。今夏は約千個のマンゴーを収穫し、地元の新たな名産品を目指している。

 マンゴーのほかにイチゴも栽培しており、同グループが運営する同市内の菓子店「ドラジェ」でケーキなどのスイーツとして販売。「甘くて、おいしい」と好評という。

 「前から行っていた取り組みがまさに『SDGs』そのものだった」と話す梅田係長。同グループは令和元年10月に、SDGsの取り組みをさらに進めていく企業になると宣言。不要になった木材の再利用を通じた環境保護活動だけでなく、男女や国籍を問わず働きやすい環境を提供できるよう、未来を見据える。

 滋賀県は平成29年、全国に先駆けてSDGsの考え方を県政の基本理念に導入し、理念に沿った民間の動きも活発だ。長浜市の「明豊建設」は本業の土木工事に加え、琵琶湖の水草を微生物を使って発酵させた「有機肥料」を製造している。湖面を覆いつくし、悪臭の原因ともなる水草の有効活用を模索する中で、開発にこぎつけた。売り上げの一部は、琵琶湖の環境保全に充てられている。

 滋賀のSDGsの原点は、琵琶湖の保全だ。昭和50年代、琵琶湖では合成洗剤に含まれる「リン」が要因で淡水赤潮が大発生。合成洗剤の使用をやめ、粉石けんを使おうという「石けん運動」が広がった。行政への働きかけも強まり、合成洗剤の販売・使用の禁止などを盛り込んだ「琵琶湖条例」の施行につながった歴史をもつ。

 SDGsの普及を担う県の担当者は「琵琶湖の将来を見据えて、もともと環境や社会への関心が高い県民性。SDGsの考え方が理解されやすいのではないか」と話している。(清水更沙)