話題・その他

「レビューの4割超がやらせ」アマゾンから怪しい日本語の感想がなくならない本当の理由

 ネット通販では一部の企業が悪質な「やらせレビュー」を大量発生させている。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「こうした行為はレビューに対する信頼を傷つけ、消費者にも企業にもマイナスになる。欧米では違法化が進んでおり、日本でも早急に規制を強化すべきだ」という--。

 ■アマゾンに投稿された4割超が不正レビュー

 ネット通販では、商品に「レビュー」をつけられるサイトが多い。ただ、その内容には注意が必要だ。ある40代男性は「アマゾンのレビューは信頼できない。日本語として怪しいものも多いし、極端に点数が高いときは業者のやらせレビューではないか確認してから買うようにしている」と話す。同じように考える人は多いかもしれない。

 2021年5月、セキュリティ製品のレビューサイトSafetyDetevtivesが、アマゾンで不正レビューを行う組織のデータベースを発見した。レビュー投稿を依頼する業者と顧客のやり取りのほか、20万人以上のメールアドレス、報酬の支払いに利用するPayPalアカウントなどが含まれていた。その直後、アマゾンから600以上の中国ブランドが削除された。いずれも不正レビューにかかわっていたとみられている。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響でネット通販利用が伸びたことで、ステルスマーケティング(ステマ。中立な評価を装った広告)は増加傾向にある。不正レビューを判定するChrome拡張機能を提供するFakespotによると、コロナ禍でアマゾンの不正レビュー件数は急増し、投稿された7億2000万件のうち42%を占めるという。なぜこのような事態となっているのだろうか。

 ■「悪質市場」批判で、不正レビューは削除したが…

 アマゾンは、米通商代表部(USTR)から偽ブランドや偽造品などを販売または販売の手助けをしているとして、2019年と20年の2年連続で「悪質市場」に指定されている。

 アマゾンは対処していないわけではない。カスタマーレビューについては規約で「他のお客様からの商品に対する率直な評価を反映したものである必要があります。その一方で、レビューが宣伝や販促の目的で利用されることのないよう、防止に努めています。販促目的でレビューを書くことは厳しく禁じられています。」と明記している。

 2016年には、出品者が自身の商品や競合他社など金銭的利害関係を持つ商品に対してレビューを投稿する行為、また対価と引き換えに他人にレビューを依頼したり、レビューの変更・削除を求める行為を明確に禁止した。

 また、詐欺や不正出品を防止するため、7億円以上の投資をして1万人以上を雇用。その結果100億件以上の商品の出品を防ぎ、2021年5月には小売業者らが同社の物流拠点に送ってきた商品のうち偽造が疑われる200万点以上を破壊処分もしている。同時に、パトロールと機械学習システムによって不正レビューの削除も行っている。

 ■売上目当ての悪徳業者とのイタチごっこ

 しかし、実態はまだまだステマに当たる不正レビューがあふれている状態だ。これは、SNSなどアマゾンの監視の目が届かないプラットフォーム上でステマレビュー募集などの不正行為が横行しており、完全に排除することが難しいためと考えられる。

 事実、FacebookやInstagramでは「ベスト1000レビュアーを募集中」「注文で半額返金し、レビューで全額返金」「PayPalで返金」といったステマレビューの取引行為が相次いでいる。自動で発見、削除したり、新規投稿を禁止するなど対処しているというが、執筆時点でまだまだ多くのレビュー募集が見られる。

 つまりアマゾンがいくら対策をしても、次々と投稿を繰り返す業者との間で、イタチごっこになっているのだ。

 ■米英独は違法化で消費者を守っている

 ステマレビューによって被害を受けるのは、高評価を信じて時に粗悪品を購入してしまう消費者だ。アマゾンに限らず、ネット上にあふれているステマは規制されないのだろうか。

 ステマ対策は国ごとに異なっている。たとえば米国では、2009年に「広告における推奨及び証言の利用に関する指導」が改訂され、ステマは違法と規定された。PR活動において、広告主との関係や金銭授受の有無を公開することが義務付けられているのだ。

 ヨーロッパでも、英国では2008年に不正取引からの消費者保護に関する規制法が施行され、ステマは違法と規定されているなど、違法とされることが多い。これはドイツでも同様で、消費者に広告と気づかせない方法で商品紹介サイトへ誘導する行為は違法とされる。違法となることで、ステマ投稿が減ることは間違いないだろう。

 一方日本では、景品表示法や軽犯罪法に該当すれば違反とされるものの、ステマ自体を規制する法律は存在しない。WOMマーケティング協議会のガイドラインにより、広告主とインフルエンサーの関係を明示することとされているのみだ。投稿内に「#PR」「#タイアップ」など明記する必要があるとされるが、あくまで自主規制であり、ガイドラインに違反しても罰せられるわけではない。

 ■ディズニー作品でもステマが常態化か

 執筆現在、検索サイトで「ステマ」と検索すると、関連キーワードとして「ディズニー」「フジ」「アナウンサー」などが表示される。

 ディズニーとは、2019年末の「アナと雪の女王2」に関するステマ事件を指すと考えられる。ほぼ同時刻にTwitterで複数の漫画家によってレビュー漫画が投稿されたが、広告という表記がなかったため、ステマと疑われたのだ。その後漫画家らは、投稿が企業から依頼されたPR広告だった旨を説明のうえで謝罪している。

 「フジ」「アナウンサー」とは、今年4月、フジテレビの女子アナたちのInstagramにおける美容室に関する投稿がステマだった疑惑を指すと見られる。当事者として名前が挙がった女子アナたち9人は後日、謝罪している。

 さらにディズニーを巡っては、過去にアベンジャーズやキャプテン・マーベルでも同様に同時刻に複数の漫画レビューが投稿されていたことが明らかになるなど、ステマが常態化していたらしいこともわかっている。

 ■消費者がレビューを信用できるようになるには

 SNSを使ったPRは、投稿する人によっては高い宣伝効果が期待できる。しかし、ステマは信頼性を逆手に取って消費者を裏切る行為だ。

 このインターネット時代、ステマが疑われれば誰でも簡単に検証可能だ。アナ雪のケースのように、同じ内容を一斉に投稿すればすぐに検索で「共犯者」が見つかる。ステマをしても罰せられることこそないが、信頼性を損ない、疑いの目で見られ続けることになることを考えると、長期的に見ればマイナスでしかないだろう。

 現状、SNSなどで高評価をする場合、「ステマではないです」と断り書きを書かねばならなくなっている。またYouTubeでも、インフルエンサーらが企業から依頼されて商品を紹介する動画には「プロモーションを含みます」といったテロップが入る。

 それだけステマが蔓延し、レビューが疑いの目で見られるようになっているということだ。これは消費者にとっても、SNSをマーケティングに活用したいすべての企業にとっても大きなマイナスであり、ステマを減らすことは双方のメリットにつながる。

 失なわれたレビューへの信頼性を取り戻すために、法制化を含めて規制強化を検討すべき時期がきていると言える。

 

 高橋 暁子(たかはし・あきこ)

 成蹊大学客員教授

 ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

 

 (成蹊大学客員教授 高橋 暁子)