テクノロジー

アンモニア燃料船開発でオールジャパン態勢 国の支援受け中韓勢に先行へ

 造船会社などが、アンモニアを燃料に使う船の開発に相次ぎ乗り出している。アンモニア燃料船は、航行中に二酸化炭素(CO2)を排出しないことから、脱炭素化時代の海運を支える重要な存在になるとみられている。このため海運会社やエンジンメーカー、関係機関を含めてオールジャパンに近い開発態勢を組み、造船のシェア争いで先行する中国勢や韓国勢に先行したい考えだ。

 「リスクを恐れず、ベンチャー精神を持って果敢にチャレンジする先駆者でありたい」。日本郵船の横山勉グリーンビジネスグループ長は、アンモニア燃料船の開発に向けた意気込みをそう述べる。

 日本郵船や船舶の設計などを手掛ける日本シップヤード(NSY)などは、2種類のアンモニア燃料船を開発する計画。まず令和6年度にタグボート(内航船)を、2年後にはより大型の輸送船(外航船)を完成させる考えだ。

 外航船では、日本郵船が設計や法規への対応、NSYは船体開発や建造手法の検討を担う。エンジンは、ジャパンエンジンコーポレーションとIHI子会社のIHI原動機が開発する。総事業費は約123億円に及び、最大84億円を国が支援することになっている。

 アンモニアは、貨物として運ぶものを燃料としても使えるようにするという。

 今年1月に誕生したNSYには、国内造船最大手の今治造船が51%、2位のジャパンマリンユナイテッドが49%を出資している。NSYは、ほかにも伊藤忠商事や三井E&Sホールディングス傘下の三井E&Sマシナリーなどと鉄鉱石輸送などに使う大型ばら積み船を開発し、8年にも実用化する計画で、こちらも国の支援がついた。NSYが船体、三井E&Sマシナリーが燃料タンクなどを開発。プロジェクトを管理する伊藤忠は、燃料供給網の整備にも取り組んでいる。

 三井E&Sマシナリーではこれ以外に、商船三井やドイツのエンジンメーカーであるマンエナジーソリューションズと、アンモニア燃料船の発注に向けた基本協定書を締結した。三井E&Sマシナリーがマン社のライセンス供与を受けてエンジンを製造し、同エンジンを搭載した船を商船三井が発注する方針だ。

 これまで船舶燃料には重油が使われてきたが、近年はCO2排出量が少ない液化天然ガス(LNG)に置き換わりつつある。ただ、LNGでは温室効果ガス排出実質ゼロが達成できないことから、いずれは水素やアンモニアに置き換わるとみられている。

 このため日本郵船は今年9月に船舶技術コンサルタントのエロマティック(フィンランド)と組み、アンモニア燃焼船への転換が可能なLNG燃料船の設計開発にも着手している。

 アンモニアは燃焼速度が遅いほか、船体が腐食しやすく排ガス中の窒素酸化物(NOx)への対策も必要だが、輸送や貯蔵の技術が確立済みなのが魅力だ。水素が液化して運ぶのにセ氏マイナス253度まで冷やす必要があるのに対し、マイナス33度で液化できるなど、次世代燃料の中でも優位点が少なくない。NSYの梅山信孝商品企画部長兼アンモニア燃料船開発部長は「外航の大型船ではアンモニアが現状では一番適切」との見方を示す。(井田通人)