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デジタル臨調、福岡市長「高島宗一郎流」で国を動かす

 16日に初会合が開かれた行政機関のデジタル化の推進や規制改革などを議論する政府のデジタル臨時行政調査会(臨調)で、福岡市の高島宗一郎市長はマイナンバーの運用に関して提言。これに対し、岸田文雄首相から速やかに具体化するよう指示が出された。委員で唯一、市民サービスという現場を持つ自治体首長として直面している問題への切実な訴えが国を動かした。

 「人と一緒に情報も移動し、継続して同一の住民サービスが受けられるよう『データポータビリティ』との考えに基づいた施策が必要だ」

 デジタル臨調で、高島氏は、岸田氏らを前にこう強調し、マイナンバー法の特例的な運用や抜本的改正の必要性を訴えた。

 提言では、国民生活に最前線で向き合う基礎自治体の首長として、同法などの問題点を複数指摘した。

 その1つは新型コロナウイルスワクチンの接種券送付だ。自治体をまたいだ接種記録の共有が認められていないことがボトルネックになっていた。

 市は1、2回目の接種券を7月10日時点までの福岡市民に送付した。ただ、その後の転入者については転入前の自治体との情報共有ができず、個別対応を余儀なくされた。

 7~10月の4カ月で、福岡市には約1万9千人が転入した。対して8~10月の3カ月で市民からの接種券発行の申請は再発行を含め約1万6千件。少なくとも3千人以上も申請していない可能性があるとみられ、担当者には日々の接種に加え、申請への対応という負荷がかかっている。

 12月以降、2回目の接種から8カ月以上を経過した市民を対象に3回目の接種券送付が始まるが、さらなる混乱は避けられない。転入者からの申請がなければ福岡市は接種の有無や時期について情報を得られないからだ。

 「法改正は間に合わないが接種は始まる。特例的な運用を検討するなど早急な対応を求める」とした高島氏に対し、岸田氏は事務方に具体策の即時検討を指示した。

 ワクチン問題は行政間の情報連携についての問題点を顕在化させたに過ぎない。デジタル臨調に先立つ15日の記者会見で、高島氏は「自分でSOSが出せない人をプッシュ型でフォローすることが重要。デジタル社会で(技術的には)可能なのに、法律上できないからと放置することはできない」としていた。

 高島氏は16日のデジタル臨調で、就職などの節目で必要になる国民健康保険からの離脱や、子供の医療費を助成する医療証の発行などが、いずれも住民からの申請をもとに手続きを余儀なくされていることを念頭に、問題を投げかけた。

 出生などの情報は行政機関で把握できる。しかし、そこから派生したさまざまな行政サービスについて、情報の連携が不十分なことで、住民に余計な申請を行う手間が生じ、行政側にとっても福祉施策などのセーフティーネットに穴が開いてしまう。マイナンバー法上の制限などで児童虐待などの情報も自治体間はもちろん、自治体内での部署間共有ですら容易でない。

 高島氏は、現場が抱える問題をデジタル技術で少しでも解決につなげられるなら、取り入れない理由はないと迫ったのだ。

 岸田氏はこれに対してもデータの活用に向けた検討を指示した。

 臨調を終え、高島氏は自身のSNSに「自治体から国に直接提言ができる貴重なチャンスを活かして、どんどん提案していきます」と投稿した。熱意の背景には、高島氏が5月に出版した自著で吐露した「現行法制下のデータ管理手法は危機対応上のボトルネックになる」との危機感がある。

 高島氏は同書で「『戦争につながりかねないものは徹底的に排除する』という私たちの発想や国の制度がある意味、国民に襲いかかるあらゆる危機に対してもすべからく無思考にさせていた面もあったのかもしれない」と述べ、国や行政が個人情報を取得することに極端な忌避感があると指摘していた。

 コロナ禍での給付金をめぐる混乱も、原因はマイナンバーと口座情報の連携がなされていないことにあった。

 ただ、高島氏自身も「国が国民を管理することへの抵抗感がある」と認めるように、マイナンバーをめぐる問題は反発が生じがちだ。デジタル臨調で高島氏は「連携すべき情報や管理手法の整理に加え、個人情報への不正アクセスへの厳罰化も同時に検討すべきだ」ともしたが、一連の問題提起は自身へのバッシングにつながる恐れはある。

 それでも高島氏を支えるある福岡市議は「守りに入ったら高島流ではない。とにかく攻めなければいけない」と語る。

 高島氏の政治手腕を買い、後押しした安倍晋三元首相や、その後継の菅義偉前首相に続き、岸田政権でも「高島流」は存在感を見せた。

 自身の政治姿勢について「自治体運営の点から、日本を変えていくためのチャレンジ」と位置付ける高島氏は現状について周囲にこう語った。

 「ありがたいですね。本当に」(中村雅和)