先月12日の本コラムで、米大手検索サイト、グーグルがサンフランシスコ市で社員の通勤のために運行させている無料のシャトルバスが“格差社会”の象徴として地域住民から敵視され、デモが起こるなど大きな問題になっているというお話をご紹介しました。
このコラムへの反響は大きく、現地に住む日本人をはじめ、多くの方からメールで感想などをもらいました。その中には「高給取りのIT(情報技術)企業に対する単なる妬み」といった意見も少なくありませんでした。
実は記者もあのコラムを書きながら「あのグーグルのことだから、カエルの面に何とかだろうなあ」と思っていたのですが、何とこの“グーグルVS地域住民”のガチンコ対決、全く予想外の展開をたどり始めたのです。
ではまず簡単におさらい。事の発端は、グーグルがサンフランシスコ市一帯に住む社員の通勤用に走らせている32台の無料シャトルバスです。
グーグルの本社はIT産業の一大集積地でサンフランシスコ市の湾岸地域南部に位置するシリコンバレーにありますが、ここに勤務する約1200人が毎日、このバスを利用して通勤しています。
1台37人乗りで、革張りの座席にエアコンと無線LANを完備。全132便で、湾岸地域の6郡約20都市の主要40カ所で社員が乗降する綿密な路線網はサンフランシスコ最強の交通機関ともいわれ、バス停の近くにわざわざ引っ越した社員も少なくありません。
ソフトウエア技術者の年収で約12万7143ドル(約1300万円)と、米国の普通のサラリーマンの平均年収の軽く3倍以上という高級取りのエリートで知られる彼らは、それだけでやっかみの対象なのですが、全米最悪級の交通渋滞で知られる同市近郊で、みんながイライラしながらマイカー通勤を余儀なくされるなか、毎朝楽しそうにこのバスで通勤する彼らの姿に地域住民のやっかみが、ついに大爆発。
昨年12月には市民や活動家がこの無料バスを約30分間取り囲んで抗議活動を展開したほか、窓ガラスが投石で割られるといった深刻な事態が発生しました。
こうした抗議活動を機に、地元では「高給取りの彼らの大量流入がサンフランシスコ市の不動産価格や地価の急上昇を招いている」といった非難が起こり、研究者からは「このままでは貧困層はもちろん、中間所得層や芸術家らが街を追われるような事態が起こる」との指摘が相次いでいたのです。
これが日本での出来事なら「金持ちへの妬みやろ」で時の経過とともに沈静化、というより、うやむやで終わるのでしょうが、さすが米国。やることが違います。
何とこの事態を重視したサンフランシスコ市の交通局は先月21日に開催した取締役会で、グーグルをはじめ、フェイスブックやアップルなど、同じように社員の通勤のための無料バスを走らせているIT企業などに対し、バスが停留所に1回停車するごとに1ドル(約100円)を徴収するという“規制策”を全会一致で可決したのです。
先月の21日付で地元紙サンフランシスコ・クロニクルや米紙ロサンゼルス・タイムズ、ニューヨーク・タイムズ(いずれも電子版)など全米の主要メディアが一斉に伝えていますが、この“規制策”は今年の7月から試験プログラムとして18カ月間、行われることになりました。