◆医療分野にかじ切る
震災は人命をはじめ、多くの大切なものを奪っていった。その一方、同社にとっては新しい着想にもつながった。
15年6月に開発した子供の弱視矯正装置「オクルパッド」もその一つだ。
オクルパッドは専用のタブレット端末とメガネで1組となる。裸眼では真っ白にしか見えない特殊な画面を偏光フィルターを貼ったメガネで見ると、映像が浮かび上がる。視力の弱い方の目だけにフィルターを貼って、簡単な専用ゲームを続けることで脳を刺激、視力が鍛えられる仕組みだ。
きっかけは震災で壊れたテレビだった。液晶画面から表面の偏光フィルムがはがれ、真っ白に光っていたことにヒントを得て開発を進めた。
やがて、弱視治療の研究者の目にとまり、医療分野への応用にかじを切った。医療機器のため直接販売はできず、販売数は140台にとどまるものの、保護者や医療関係者の注目を集めている。
同社はこのほかにもさまざまな製品を開発中で、佐藤工場長は「中小企業のものづくりは変わってきている」と強調する。研究開発をオープンにし、幅広い知見を集め、復興促進に向けて産学連携も進める。
それを可能にするのは、日常の思いつきを実現するフットワークの軽さと、確かな「ものづくり」を支える技術力にほかならない。(上田直輝)
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【会社概要】ヤグチ電子工業
▽本社=宮城県石巻市鹿又嘉右衛門301
▽設立=1974年4月
▽資本金=1000万円
▽従業員=25人
▽売上高=約9000万円(2015年)
▽事業内容=業務用電子機器・一般電子機器組み立てなど
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