入線確認は、主に機関車や貨車の重量が問題となる。36トン積みならタキ1000でも入線確認が不要になるのではないか。ただ、タンク貨車は通常、満タンで運ぶ設計になっている。隙間があると石油が波立ち、走行性能などに問題が生じるかもしれない。原さんは「わからない。JR東日本に提案する価値はある」と答えた。
通常なら3カ月
一方、JR貨物では全国に散らばっているタキ38000を千葉と川崎の拠点に集める作業が進められていた。保守作業を行うためだ。「おい、根岸にはいつ届くんだ?」。現場でタキ38000の調達に奔走していた関東支社の鈴木晃一さん(現広報室)のもとには、本社から矢のような催促が届く。
問題となったのはタキ38000の走行速度が最高で時速75キロに限定されていたことだ。この頃、関東周辺のほとんどの路線では、既に通常に近いダイヤで旅客列車の運行が再開していた。そのほとんどが最高時速100キロ前後で走行しており、通常の運行時間に75キロのタキ38000を走らせれば、瞬く間に線路上で渋滞、遅延が発生する。旅客列車が切れた合間に少しずつ運んでくるしかなかった。不眠不休の保守作業で、タキ38000の運用にもめどがつく。石油列車の第一便は当初計画より1日早まり、3月18日夜の出発が決まった。
しかし、被災地の石油需要に見合う輸送量を実現するには、タキ1000の投入が不可欠。入線確認をとるため、JR貨物はJR東日本に資料を持ち込んだ。通常3カ月はかかる作業だが、資料を受け取ったJR東の担当課長は「入線確認は明日までに出すぞ」と指示を出した。
入線確認が予想外に早くとれたことで、JOTが計画していた36トン積みのタキ1000は幻に終わった。みんなが一丸となって被災地に石油を送ろうと奮起した。その記念として、作成したステッカーは今もJOTに保管されている。
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