【高論卓説】羽生永世七冠と井山七冠の偉業

 ■将棋と囲碁の深み、すごみに学びたい

 将棋で永世七冠になった羽生善治氏と、囲碁で七冠を2度達成した井山裕太氏への国民栄誉賞授与が検討されている。

 いずれも前人未到の偉業だが(1)今月の羽生氏の永世七冠達成後に本件が出た(井山氏の偉業は10月)(2)井山氏は28歳(羽生氏は47歳。20代受賞者は過去2人のみ)(3)2人同時受賞は師弟関係の長嶋茂雄氏と松井秀喜氏だけ-などを考慮すると今回は羽生氏に焦点を当て、井山氏は後でも良いのでは、とも感じる。などと書くと、一見客観的ながら、改めて自分は将棋派だ、と認識せざるを得ない。

 「囲碁将棋」とひとくくりにされるが、両者は全然違う。囲碁は19×19の広い盤上で、白黒の碁石で陣取り合戦をするが、将棋は9×9の盤上、各種の駒で相手の王(玉)を取りに行く。王を取る激しさから「将棋は心臓に悪く若い人向け。年を取ったら囲碁」と勧める人もいる。

 私は、囲碁が趣味の父に似ず昔から将棋派で、小学生時分からよく指していた。最近は、敬愛する作家の北康利氏のお導きで、地域活性の文脈で日本将棋連盟のお手伝いをする機会もあり、先月下旬の竜王戦第四局の新潟県三条市(私は同市経済活性アドバイザー)での開催にも多少の骨を折った。

 そんな縁でプロ棋士のお話を伺う機会がたまにあるが、驚くのは、少子化にもかかわらず、将棋の裾野が拡大していることだ(データにより種々の解釈があるが、関係者の一般的認識)。直近は、史上5人目の中学生棋士で公式戦29連勝の新記録を樹立した藤井四段ブームや、将棋が題材の漫画・映画『3月のライオン』のヒットが大きいが、実はそれ以前からの傾向だそうだ。

 教育的には「論理的に考える良い訓練」とされるが、加えて、特に「自制心」を養う手段として好まれるそうだ。確かに、不利な局面だと盤上を物理的にめちゃくちゃにしたくもなるが、それを我慢するのは当然として、自ら逆転不能を認識した後には「負けました」と言わねばならない。

 また、チェスを筆頭に、世界各地に将棋系ゲームは多々あるが、取った相手駒を自分の手駒として再利用できるルールは極めて珍しく、将棋は日本人の思考様式を体現しているとも言われる。複雑さも段違いだ。

 白と黒の碁石で行う囲碁はグローバル化が進展し、日中韓を中心に棋士たちが切磋琢磨(せっさたくま)しているが、将棋は、駒の特殊性もあって、恐らく国内中心に発展していかざるを得ない。柔道と異なりオリンピック種目化を目指さない剣道よろしく、文化・独自性を大切に発展していくのも一つの道、と一愛好家として思う。

 ただ、最近「囲碁も学びたい」と思い始めている。というのも、弊社社是である「日本の活性化」を考えるに、わが国の現状は「王を取ったら終わり」という勝負ではなく、あれもこれも的に抜本改革が必要で、いわば壮大な陣取り合戦がいるからだ。

 先月、会社設立7周年を迎えたが、政策支援業務(政治家・政党向け)に始まり、人材育成、地域活性、グローバル展開支援などさまざまな陣取りをする中で、これらを密接につなげていければと思う。囲碁では、盤上の各陣地を孤立させずにつなげる手筋が重要だそうだ。

 それにしても、将棋も囲碁も世界に誇れるすごいコンテンツだ。先人たちが創造・発展させてくれた意味をかみしめ、追い込まれても「羽生にらみ」で頑張りたい。

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【プロフィル】朝比奈一郎

 あさひな・いちろう 青山社中筆頭代表・CEO。東大法卒。ハーバード大学行政大学院修了。1997年通商産業省(現経済産業省)。プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)代表として霞が関改革を提言。経産省退職後、2010年に青山社中を設立し、若手リーダーの育成や国・地域の政策作りに従事。ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授。44歳。