【PC Watch】コマツ、AIで建設現場をスマート化

コマツとNVIDIAの協業による「現場AR(拡張現実)」のイメージ写真
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 ■NVIDIAと協業でドローン活用

 コマツは米半導体メーカーのNVIDIAと建設現場におけるAI(人工知能)の導入で協業する。

 コマツは建設現場全体を可視化し分析するため、NVIDIAが開発したGPU(画像処理装置)を活用していく。コマツが提唱し、先進技術を駆使し効率性と安全性が高い建設業務を意味する「スマートコンストラクション」の現場への導入を推進する構えだ。

 ◆3D画像の情報提供

 協業の中心となるのは、NVIDIAの「Jetson」AIプラットフォームで、コマツのパートナーである米Skycapchaの小型無人機「ドローン」と通信し、3D(3次元)画像を収集して地形データの作成に利用される。また、コマツの建設機械に搭載して接触や衝突などの事故の回避に使われるほか、カメラに接続することでAIで状況を認識し、作業者への的確な指示を可能にするという。

 将来的には、機器の自動制御に加え、建設現場や採掘現場の高解像度レンダリングや仮想シミュレーションなどに利用される予定だ。

 コマツは今後、NVIDIAが所有する画像処理や仮想化、AIに関する技術やノウハウを活用し、スマートコンストラクション事業をさらに推進していく。

 NVIDIA日本法人のエヌビディア合同会社(東京都港区)の齋藤弘樹インダストリー事業部事業部長は、NVIDIAの事業領域について、ゲーミング、エンタープライズグラフィックス、HPC&クラウド、インテリジェントマシンの4つを挙げ、ゲーミングではGeForce、エンタープライズグラフィックスではQuadro、スーパーコンピューターやデータセンターではTeslaブランドを用意しており、AIではJetsonがプラットフォームになると説明した。

 NVIDIAは、AIをエッジからクラウドまでさまざまな領域や形態で活用できるソリューションを展開している。ユーザーは同じツールで開発・研究できるのが、同社のAIプラットフォームの大きな利点の一つだ。

 コマツの建機が活用される建設業や鉱業では、多くの業務が同時に進行し、作業環境が現場ごとに異なるなど多様性があり、効率性と安全性の追求が不可欠だ。齋藤氏は「それらの産業ではAIの必要性が高い」と強調した。そのうえで「まず実現が求められているのが労働安全性で、建設機械は作業者が周りを見渡しづらい環境にあることが多く、安全のためには周辺を認識することが重要となる。これは自動運転車と同じ要素であり、AIが貢献できるポイントである」と説明している。

 生産性の向上については、現場では複雑なプロセスの管理や追跡などを現場監督が全て行っている。齋藤氏は「3D画像でスケジュール管理に必要な情報を提供するコンピュータービジョンなど、作業進捗(しんちょく)状況や品質管理など現場監督が認識する必要のある情報の提供という形でAIが貢献できる」とした。

 効率性については、建機は高価であるため、できるだけ稼働させておきたいニーズがあるという。「カメラなどでの建機活動状況の把握により、作業内容まで把握し管理することで、無駄のない運用を実現できる」(齋藤氏)

 それらの実現に向けて、Jetsonを建機やカメラなどと接続し、現場のコンピューターにはTeslaを搭載するほか、クラウドにもNVIDIAのスーパーコンピューター「DGX-1」を配置することで、AIの学習だけでなく、クラウドからさまざまな管理サービスを提供できるという。

 ◆地形把握で衝突回避

 今回の協業では、ドローンによる地形の把握や、建機のカメラをJetsonに接続し、衝突回避のための周辺認識を行わせるといった形でNVIDIAのGPUが使われる。

 国内の建設業界は、高齢化や熟練工の減少などにより、2025年までに、技能労働者約340万人の3分の1に相当する約110万人が離職すると予測され、深刻な労働力不足が課題になっている。解決には、残り230万人で300万人超の働きを実現して労働生産性の向上が必要とされる。

 コマツは建設機械の施工をICT(情報通信技術)で自動制御する「情報化施工建機(ICT建機)」を開発、13年から市場に投入している。しかし、ICT建機の導入で効率化されるのは施工の一部にすぎず、施工全体の生産性向上に大きく寄与するには至っていないのが現状だ。このため、コマツは安全で生産性の高い現場作業を実現するためスマートコンストラクション事業を15年に開始した。同事業では、この3年で建設生産プロセスの全体を3次元データでつなぎ、生産プロセスに関わる人や機械、土などの資材まで全ての“コト”をつなぐことで「建設現場の見える化」まで可能になった。

 全体図としては、測量データをドローンで取得し、施工計画をシミュレーターで作成。ICT建機による施工を行い、施工後の検査も3次元の施工実績データを用いることで簡単に行えるようになるという。

 実際の現場は、コマツ以外の建機を含めて機材や人など数多くの作業条件が異なる。全体を可視化する場合は、パワーショベルの刃先や一時的に土砂を置く仮置き場までカバーすべきかといった問題がある。

 コマツ執行役員スマートコンストラクション推進本部長の四家千佳史氏は「難しいからこそ可視化する価値がある」としたうえで、ICT建機では既にGPS(全地球測位システム)をベースに3~5センチ未満の高精度で刃先の位置情報をリアルタイムで取得できると指摘。建機に搭載するステレオカメラにより周辺情報もカバーできるという。

 コマツは米Skycapchaと共同でドローンを飛ばし、現場の写真を撮影させるシステムを構築している。しかし、撮影データから3次元データを作成する際、従来は2ギガバイト超のデータを6~7時間かけて3次元データに変換した後に不要データの除去などで15~20時間を費やしていた。

 そこで、Jetsonを搭載した機器「Edge Box」をドローンに接続し、撮影と同時に3Dデータ化する。機器の上部にはGNSSモジュールが搭載されており、ICT建機のゲートウエーとしても利用できる。

 建設や掘削などの屋外現場ではデジタル化が困難といわれてきた。四家氏は「今では、画像認識によって、手付かずだった建設業界が最先端のデジタル化された業界になりつつある」と語った。(インプレスウオッチ)