起業の裾野拡大に3つの課題 教育、イントレプレナー育成、地方支援(2-1)

四国の地銀4行が提携した「四国アライアンス」の発表。JPXは地方金融機関との提携に力を入れている
四国の地銀4行が提携した「四国アライアンス」の発表。JPXは地方金融機関との提携に力を入れている【拡大】

  • 昨年8月に日本政策金融公庫が企画した、高校生ビジネスプラン・グランプリの参加経験者を招いた交流会=東京都千代田区のTOKYO創業ステーション
  • 昨年12月にデロイトトーマツベンチャーサポートが開催したモーニングピッチの特別イベント=東京都千代田区
  • 日野学園(東京都品川区立)で行われた起業家による授業

 国内では、「起業」をめぐる取り組みが広がっている。ベンチャー企業がビジネスプランを競い合う発表会が、相次いで開催されているほか、大手企業とベンチャーとの連携も活発だ。ただ、現状では起業に対する関心はまだまだ低い。一連の動きをさらに活性化させて株式公開(IPO)のペースを加速させ、日本経済の基盤を強固なものとしていくには、課題が山積している。

 ベンチャーの新たな聖地といわれている東京・五反田。その地に本社を構えるベンチャー24社の経営トップらが、昨年10月下旬、品川区立日野学園に集結した。

 「ドリームジョブツアーin五反田バレー」と題した、8年生(中学2年生に相当)を対象とするキャリア教育の講師を務めるのが目的だ。

 “先生”は起業に至る理由などを熱く語り、生徒は「自分で考えて行動する」「勉強は将来のため」といったメッセージをしっかりと受け取り、「起業」を身近に感じていた。

 ◆出遅れた日本

 起業に関する日本の環境整備は遅れている。例えばベンチャーへの投資額。米国は年間6兆~7兆円、中国は2兆円なのに対し、日本は1000億~2000億円にすぎない。起業に無関心な人の割合も8割に近く、欧米を大きく上回っている。

 こうした環境の改善に向けて注目を集めているのが、小中高校生を対象にした起業家教育だ。

 日本政策金融公庫は、独自の事業プランを競い合う「高校生ビジネスプラン・グランプリ」を主催している。高校生の発想は斬新だ。しかし、自らの力で事業化プランを完成させるのは困難だ。このため、日本公庫の職員が学校を訪問しプラン作成をサポートする「出張授業」を実施するなど、起業を目指す予備軍の裾野拡大に力を入れる。

 同コンテストは2013年度から開催しており、昨年8月には大学生や社会人になった参加経験者を招く初の交流会も企画した。当日は中学生インターンのメンバーも参加。高校生グランプリ経験者を前に起業プランを発表する場も用意された。

 経験者の中には実際に事業を立ち上げた人もあり、参加者は刺激を受けている。起業をキャリアの選択肢の一つとして定着させるためにも、起業家教育の重要度はさらに増すとみられる。

 ◆地銀との連携推進

 ベンチャーがプレゼンテーションを行う「ピッチ」というイベントや、大手企業がベンチャーへの協業・出資を目的とした「アクセラレータープログラム」の導入が進む中、イントレプレナー(企業内起業家)の育成も注目を集めている。

 特に大企業は、多くの優秀な人材を抱えているのに加え、資金的にも余裕があるため、新たな事業を創出しやすい環境にあるからだ。

 一方、起業家が輩出しやすい土壌を整備するのと並行して、出口戦略の強化が不可欠となってくる。

 特に地方での環境整備は喫緊の課題で、東京証券取引所は17年から、地方金融機関との連携を推進。

 既に高松市の百十四銀行をはじめ四国4県にそれぞれ本店を置く4行と、仙台市の七十七銀行、福岡市の西日本シティ銀行などと基本協定を締結し、起業からIPOに至るまで、地域企業の成長ステージに応じた支援を行っている。

 起業家教育、イントレプレナーの育成、地方支援という裾野拡大に向けた3つの課題について、日本政策金融公庫の上野善晴専務、デロイトトーマツベンチャーサポートの瀬川友史・新規事業創出チームリーダー、東京証券取引所の小沼泰之・取締役常務執行役員という3人のキーマンに聞いた。

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 □日本政策金融公庫・上野善晴専務

 ■大企業とベンチャーの橋渡し役

 --高校生ビジネスプラン・グランプリの最終審査会を7日に開催する

 「グランプリは5回目となるが、フェイスブックや若者向けのイメージCMといった広報活動や口コミが功を奏し、量的拡大を遂げている。今回は385校が応募しエントリー総数は3247件に達したが、第4回に比べるとそれぞれ18%、22%増加した。当日発表するファイナリストは10組。20組までのセミファイナリストの動向を含めると、大都市以外の高校の入賞が増えている。数だけでなく底辺も広がっているといった手応えをつかんでいる」

 --プランの特徴は

 「グランプリを開始した当初は地域重視、回を重ねるにつれてグローバルな視点のプランが多くなったが、今回はそれらを組み合わせた“グローカル”な提案が目立った。また、学者や自治体、企業などさまざまな分野の専門家の意見を取り入れたり旅行代理店を巻き込むなどして、完成度も高まった。セミファイナルに入っていないプランの質も相当なもの。全体的な水準の底上げは著しい」

 --起業家教育の意義は

 「自分の頭で考えて主体的に提案し行動する、アクティブ・ラーニングを養うことだ。日本の開業率は上昇しているとはいえ、まだまだ低い。ただ、起業に関心を持った人の開業率は高い。グランプリを通じ事業プランを策定し競い合うことで、『創業という選択肢がある』といった状況を作っていきたい」

 --グランプリの今後の取り組みは

 「昨年実施した交流会で中学生がプランを披露したように、テーマに応じて予備軍を招き、広がりを持たせたい。また、出張授業だけでも延べ3万6000人が受講するなどストックもかなりの数に上る。OB・OG会を通じて過去に応募した人をサポートし、起業に向かうようにする。また、日本公庫は全国15カ所に創業支援センターを配置している。相談に乗りやすい態勢を構築し、公庫全体で支えていきたい」

 --大手企業との連携が進むなどベンチャーをめぐる動きが活発化しているが

 「日本の大企業が世界で戦うためには従来の技術や手法にこだわるのではなく、変革を起こすことが求められている。そのための起爆剤となるのが、中小企業の技術力やアイデア。優秀な大企業ほど、そのあたりの状況を把握してきちんと耳を傾けている気がする。われわれはグランプリを通じて大企業に認められるようなベンチャーを創出し、両者の橋渡し役を担っていきたい」

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【プロフィル】上野善晴

 うえの・よしはる 東大法卒。1982年大蔵省(現財務省)入省。岩手県副知事、理財局次長などを経て、2014年6月から現職。58歳。熊本県出身。