【スポーツi.】右肩上がりのスポーツ・ビジネスだが…

テニス界で最も稼ぐロジャー・フェデラー(共同)
テニス界で最も稼ぐロジャー・フェデラー(共同)【拡大】

 テニスのグランドスラム(4大タイトル)の初戦、全豪オープンが15日、メルボルンで開幕する。賞金総額5500万豪ドル(約48億2400万円)、シングルスで優勝すれば、男女それぞれ400万豪ドルを獲得するといわれる。全豪の賞金総額は昨年、円換算で約42億5000万円に達し、今年は10%以上アップして、50億円の大台を視界にとらえた。

 ◆年収30億円超が乱立

 米国の雑誌「フォーブス」がまとめた2017年スポーツマン年収長者番付をみてみよう。テニスプレーヤーに焦点をあてると、ロジャー・フェデラーが70億3360万円で4位、16位にノバク・ジョコビッチの41億3600万円、26位に錦織圭の37億2900万円がランクインしている。なお、錦織は痛めている右手首の回復が完治していないため、全豪欠場を表明した。

 番付全体1位はサッカーのクリスティアーノ・ロナウドの102億2070万円、2位はバスケットボールのレブロン・ジェームズ、3位はサッカーのリオネル・メッシとトップアスリートが名を連ねる。

 年収30億円以上がひしめくとは、まさに桁違いである。ビッグマネーを稼ぎ出すビジネスモデルのパイオニアは誰だろうか。

 「スポーツビズ」という言葉を造語したといわれる、英国人記者のスティーヴン・アリスは同名の著書(ダイヤモンド社)のなかで、1960年代から70年代前半に活躍したF1レーサーのジャッキー・スチュワートをあげる。

 現役時代にスポンサーから合計100万ドル以上の収入があり、それを元手に事業を展開、巨万の富を築く。第一線から退いても自動車、タイヤメーカー、タバコ、時計会社などからサポートを受けた。スチュワートからすれば、企業側の積極的なアプローチに驚いたという。

 「事業からみて、スポーツ界で誰が大物だろうか」という質問に次のように答えている。

 「アーノルド・パーマー、ビヨン・ボルグ、ジミー・コナーズ、ジャック・ニクラウス、セベ・バレステロス…、それにジャッキー・スチュワートだ。みんな共通することは何か。それは全員、大衆にアピールするものを持っているということだ。スポンサーが求めているのは影響力のある名前だ」

 ヒーローは憧れの存在として追い求められ、ロナウド、レブロン、メッシ、フェデラー、錦織らに引き継がれている。

 ◆五輪も商業指向に

 スポーツビジネスはテレビ放映権料、スポンサー、入場料、グッズ販売の4本柱に支えられる。テニス、サッカー、野球はもちろん、五輪も例外ではなくなった。

 国際オリンピック委員会(IOC)は1974年、五輪憲章から「アマチュア」という言葉を削除した。84年ロサンゼルス大会のピーター・ユベロス五輪組織委員会委員長は「商業五輪」を打ち出し、放映権料などの4本柱で財務状況を好転させた。オリンピック運動は平和の祭典からビジネス・ファーストに変容していく。

 4年後のソウル大会に女子テニスのシュテフィ・グラフがプロ選手として初出場、金メダルを獲得する。92年のバルセロナ大会には、米プロバスケットボール協会(NBA)のスーパースター、マイケル・ジョーダン、マジック・ジョンソンらがドリームチームを結成して参加、圧倒的な強さで頂点に立つ。

 IOCは五輪こそ最高のイベントとして価値を高めようと、他の競技のプロ選手にも出場を促す。もはや、40年以上前に葬られたアマチュアリズムという遺物を掘り返しても、時代錯誤と一蹴されてしまう。国家を挙げてメダル獲得争いに全力を注ぎ、選手自身がスポンサードを期待するようになってきた。

 勝利優先のため、一線を越え、ドーピング(禁止薬物使用)に魔の手を伸ばしたとして、IOCは来月開催される平昌冬季五輪から、ロシアを排除、個人参加のみを認める決定を下した。

 今年6月には、くしくもロシアでサッカーのワールドカップが開かれる。また、2020年に東京五輪・パラリンピックが待ち受ける。ビッグマネーが注ぎ込まれる活況を呈するスポーツ・ビジネスは今後、どのような道を歩むのだろうか。さまざまな思惑が絡むだけに判断は難しい。(津田俊樹)