【光る社長 普通の社長】「ここで働きたい」と思わせる

 □アジア・ひと・しくみ研究所代表 新井健一

 福島県伊達市に本社を構えるナプロアース(naproearth.co.jp)は2011年、東日本大震災の直撃を受けた。会社を再び機能させるため、池本篤社長は本社を浪江町から伊達市に移転したが、この時点で会社に戻ることができた社員は1割ほど。9割の社員は避難のため散り散りになり、早急に人材を確保することが大きな課題となった。

 ここで、焦って「働き手は誰でも良い」とやみくもに採用するのは普通の社長。“福島の地で光る社長”は、自らが求める“福島から逃げずに働く気持ちのある人材”に的を絞り、「この会社で働きたい」と思わせるべく、自社を魅力的にわかりやすく伝えることに注力した。

 主なターゲットは現場で働いてもらう若い男性たちだが、単にホームページにテキストを羅列しただけでは、企業理念や仕事の内容を深く理解してもらうのには限界がある。

 そこで会社の案内役として「伊達結(だてゆい)」という女性アニメキャラクターを自ら考案し、彼女を“広報担当”としてプロモーションを展開した。文字量の多い社史や社員の活動紹介はストーリーマンガ化。“読んでもらう”ことに重きを置いた。

 福島に縁のあるスポーツ選手やスポーツチームがあれば、積極的にサポートして地元愛着企業として注目を集め、若者が働きやすい職場であるために、自ら「イクボス宣言」も行った。

 しかし、これらの施策は単に若者のノリに合わせたわけではない。人が採れない時代、池本社長は「若い人材を顧客と見立て、心に響くサービスを提供することが人事採用成功の鍵」と考えたのだ。実際、ホームページは見ているだけで社業の楽しさが伝わり、何よりデジタルツールでありながら無機質でない“人の熱”が伝わってくる。

 「同じ業種でも、他の会社とは何かが違うと感じた」「取り組みが多岐にわたり、さまざまなチャレンジをする会社なのだと感じた」-。ホームページを見て応募を決めた社員たちの声である。池本社長の福島へ懸ける本気が、若者の心に刺さったのだろう。

 ナプロアースの社歌は、なんとラップだ。「福島から逃げず、社員とともに楽しく働いていきたい」という震災直後の池本社長の熱い思いをリリック(歌詞)に込めたという。その思いは震災から7年が過ぎようとする今も、ヒップホップのリズムにのって、社員たちへと確実に受け継がれている。

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【プロフィル】新井健一

 あらい・けんいち 早大政経卒。大手重機械メーカー、外資系コンサルティング会社、医療・IT系ベンチャー役員などを経て、経営コンサルタントとして独立。人事分野で経営管理や経営戦略・人事制度の構築、社員の能力開発・行動変容に至るまで一貫してデザインできる専門家。45歳。神奈川県出身。