【光る社長 普通の社長】生きる力生かせば人材は集まる

 □アジア・ひと・しくみ研究所代表 新井健一

 昨今、日本の終身雇用は当たり前ではなくなった。平たく言えば、企業が人を抱え込まない時代が来たといえるのかもしれない。その最先端を行く企業として紹介したいのが、東京都渋谷区に本社を構えるエンファクトリー。2011年に総合生活情報サイト・オールアバウトから分社化し、創業当初より“専業禁止”をうたっている会社だ。

 複業(同社では副業ではなく複業と表現している)を通じて社員の自立性を尊重させたいと考えており、現在、社員30人のうち12、13人が何かしらの複業を持ちながら働いている。

 専業禁止を打ち出した理由は、かつてのようにサラリーマンとして頑張っていれば将来は安泰だった時代から、自身の人生を自らがデザインできるように、生きる力が必須の時代になったから。

 「生きる力および活(い)きる力」とは、さまざまな機会、接点、縁などから身に付けることが重要で、その機会を提供するための“専業禁止”だと言う。

 ここまでの話を聞いて、普通の社長ならば「主業に影響はないのか?」「複業を主業にするかもしれない人間に給与を出すなんて損だ」と思うだろう。

 ところが、光る社長は複業がもたらすメリットがいかに主業にプラスの効果を発揮するかがわかっている。

 例えば、よく企業研修でも言われる「経営側としてモノを見て考えよ」という言葉。サラリーマンである限り本当の意味で経営側に立ってモノを見て考えるのは難しい。ところが複業を通じて、自分で仕事を取ってきて、回してみて、税金を支払ってというような経験を積むことで、経営側の視点に立つことができるようになる。

 また同社においては、複業をする場合、その情報を会社にオープンにするというルールがあるため、おいそれと主業をおろそかにはできない。主業も複業も頑張る姿に他の社員が刺激されるなど複業にチャレンジする社員とそうではない社員の間には、きちんと正のスパイラルが生まれていることも事実なのだ。

 これからの経営者に必要なのは“オープンマインドの精神”。社員が才能を開花させ、人生設計がしやすいように考えてくれる経営者の魅力こそが、“優秀な人材を集めるための大看板”になる時代だ。

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【プロフィル】新井健一

 あらい・けんいち 早大政経卒。大手重機械メーカー、外資系コンサルティング会社、医療・IT系ベンチャー役員などを経て、経営コンサルタントとして独立。人事分野で経営管理や経営戦略・人事制度の構築、社員の能力開発・行動変容に至るまで一貫してデザインできる専門家。45歳。神奈川県出身。