【論風】データのグローバル共有と地産地消 制度・施策の国際的検討必要

 □東京大学政策ビジョン研究センター教授・渡部俊也

 今年1月、米ラスベガスで毎年恒例の世界最大の家電見本市「CES」が開催された。一般開催前日のプレスカンファレンスは、注目企業の経営者が次々と登壇。最新の事業ビジョンをプレゼンするイベントとなっており、最新企業動向が読み取れることから世界中から注目されている。

 ◆トヨタの新事業モデル

 このプレスカンファレンスで、今年最も目立った1人がトヨタ自動車の豊田章男社長だったという。トヨタが「モビリティサービスのプラットフォーム提供企業になる」とする、大変歯切れのよいプレゼンで示されたのは、ライドシェア、物流、輸送、リテール、ホテルなどさまざまな企業へのサービスを事業とするビジネスモデルであり、もはやクルマを造って売るという姿ではない。自動運転の実現に伴って、自動車産業が大きな歴史の転換点に突入しつつあることを如実に示していると言えるだろう。

 このような自動車産業の大転換をもたらす原動力が、深層学習などの人工知能(AI)の発達とビッグデータである。トヨタ車が1年間に発生させる1兆キロメートルのデータから抽出される多様な利用可能性への期待は間違いなく大きい。

 データ駆動型のビジネスとして一歩先を行く米国などのIT企業が、スマートフォンなどに提供される無料サービスを通じて取得したビッグデータがデジタルマーケティングに最大限利用されて巨額の利益を上げていることをみれば、データが今やビジネス価値の源泉であることは疑いない。

 一方、このような価値の源泉であるデータを、国や地域で囲い込もうとする動きも起きている。欧州連合(EU)は今年5月25日に個人情報(データ)の保護という基本的人権の確保を目的とした「一般データ保護規則」(GDPR)の適用を開始する。

 中国では、既に昨年「インターネット安全法」を施行しており、中国で収集した個人情報などのデータの国内保存や、海外持ち出しに関する政府の審査を義務付けることを決めている。これらは、個人情報の保護を目的とする施策であるものの、産業政策としてのデータ囲い込みという側面も見逃せない。

 世界各国は、自国から発生する多様なデータを用いた産業振興に必死に取り組んでいる。そのさなかに自国のデータが流出してしまうことは避けたいというのも本音なのではないか。

 ◆雇用が奪われる例も

 実際、日本でもある地方都市の個人情報を基にしたデジタルマーケティングによって、その地方都市で長年、広告サービスを行ってきた地場企業の仕事が奪われるといったこともあり得る。企業も国も、そして地域も、投資を行って集めた大量のデータを基に事業として活用することで利益を生み出したいとするのは当然である。

 しかしその結果として、データ提供者自身の雇用が奪われるとすればどうだろう。このような事態が拡大すれば、最後は地域のデータの持ち出しを規制しようということにもつながりかねない。

 データは極力広く共有されることでより大きな価値を生み出す。その点、国であれ、地域であれ、組織であれ、過度なデータの囲い込みは好ましくない。同時に、データを提供した個人や地域や組織には、十分な便益がもたらされるべきである。地域に関しては共有されたデータを地域の産業につながるような様態に活用すべきで、例えば「地域の健康関連データで地域に健康支援産業を生み出す」「地域の介護データで地域の介護支援サービスを生み出す」などに活用すれば「データ地産地消」として後押しする制度を設けてもよいだろう。

 同様に、グローバルにデータを極力共有し、かつ地域ごとの「データ地産地消」を実現するような制度や施策は国際的にも検討される必要がある。

                  ◇

【プロフィル】渡部俊也

 わたなべ・としや 1992年東工大博士課程修了(工学博士)。民間企業を経て96年東京大学先端科学技術研究センター客員教授、99年同教授、2012年12月から現職。工学系研究科技術経営戦略学専攻教授兼担。58歳。東京都出身。