【ガバナンス経営の最前線】(4-4)企業の意識改革進め「底上げ」を


【拡大】

  • 日本取締役協会の会員企業の株式を等ウェイトで保有した場合の累積パフォーマンスと市場平均(東証株価指数ベース)との比較。2002年4月末を0として累積した。日本取締役協会会員企業は、17年時点の東京証券取引所上場企業99社をベースにしている

 コーポレートガバナンスの仕組みを活用して日本企業の稼ぐ力を高め、日本の経済社会を元気にする。こんな目標を掲げる日本取締役協会が、その手本となる企業を表彰する「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー」を創設したのは、“コーポレートガバナンス元年”といわれた2015年のことだった。それから3年。日本企業の経営はどう変わったのか。いま何が求められているのか。宮内義彦会長に現状や今後の課題などを聞いた。(青山博美)

                  ◇

 ■日本取締役協会会長・宮内義彦氏に聞く

 --現下のコーポレートガバナンスをめぐる状況をどうみますか

 「仕組みづくりも徐々に進んできました。関係する議論も活発になっている。全体感という意味ではよい傾向にあるのではないかと思います。ただ、実質面ではまだまだの部分が多くあり、日本取締役協会の理事会などでもそうした話題は尽きません」

 「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーでは、過去3回にわたりいくつもの手本となる企業を選定し、表彰してきました。受賞企業は、ガバナンスも経営者のパフォーマンスも経営成績も素晴らしいところばかりです。先端をいく企業は、ガバナンスの仕組みも先進的で、結果としての業績もいい。ガバナンスを意識することで経営は変わる、ということがうかがえる好例といえます。こうした企業が現に存在する半面で、大部分の企業はどうでしょう。ガバナンスコードのようなルールができたので仕組みは作りましょうかね、と。仕組みができると、これで文句をいわれることもなさそうだ、と。現時点では、そんな“形式”を整えただけの企業が大半ではないか、という感じがします」

 --これは、経営者の意識の問題でもありますね

 「現状は、先進的な一握りの企業と、最低要件を整えただけのところに大きく二極分化しているのではないかと思います。これらを踏まえると、今後は大半の形式を整えただけの企業の意識を改革していく必要がありそうです。ガバナンスの仕組みで日本企業の稼ぐ力を高めていくためには、取り組まねばならないことがまだまだたくさんありそうです。“優等生”が“形だけの生徒”を引き上げていくという流れになればいいのですが、大半が“形だけの生徒”だとそうもいきません。底上げ運動が必要な状態です。日本取締役協会も、この底上げをターゲットにする必要がありそうです」

 ◆実現への道筋示す

 --形式を整えるのが目的化するようでは意味がありませんね

 「ガバナンスのためのガバナンスではいけません。ガバナンスは、企業が成長し日本の経済社会をよくするという最終的な目標を達成するための手段ですからね。極論すれば、仕組みがなくても、素晴らしい経営、業績を実現できればそれでもいいわけです。ただ、一部の例外を除けば、まずはそうなりません。かといって、先進的な取り組みを紹介しても自分たちとは関係のない世界の話だと思われるようではいけません。理想的な先端事例を示す一方、戸惑っている企業に対しては実現への道筋を示す。いわば、この橋渡しがわれわれの役割だと思います」

 ◆イノベーションに挑戦

 --ガバナンス改革は企業を強くします。研鑽(けんさん)を続ける日本取締役協会の会員企業を例にとっても効果はみえますね

 「SMBC日興証券が東証株価指数(TOPIX)と日本取締役協会会員企業の株価パフォーマンスを比較したところ、会員企業の方が高くその差も拡大していることがわかりました。これほどわかりやすく差が出たのには驚かされましたね。会員企業はガバナンス改革に熱心であり、経営者の意識も高い。その取り組みの中で、ガバナンスが企業価値を高めていると考えられます。この傾向、今後もますます強まっていくことでしょう。経営トップの意識、リーダーシップがますます問われることになります」

 「日本企業はその価値を高めるためにもっとイノベーションに挑戦していく必要があります。そのためには強いリーダーが必要です。ガバナンスは本来、そうした強いリーダーがもし暴走した場合のブレーキとして発展してきました。一方で、いまどきの日本企業には暴走どころかアクセルがどこについているのかわからないような面があります。ガバナンスの仕組みを整えるとともに、行動する経営トップを選ばないといけませんね」

 ◆仕組み動かす人材育成を

 --日本取締役協会の当面の重点施策はなんでしょうか

 「いろいろ考えるところがあります。例えば独立取締役の役割についての正しい理解、専門性を備えた人材の育成が必要でしょう。経営を監督するといってもピンとこないようでは役割を果たせません。すでに社外取締役を意識した研修を開催していますが、全体を網羅するような制度的なレベルにまで高めていくべきではないかと思います。社外取締役の水準を高めていくことは、ガバナンスをよくする条件です。実際にどんな経営をしていくのかは個々の企業によって違いますが、ガバナンス経営という背骨の部分は同じ。その仕組みをきちんと動かしていくための人材を育てないといけません。まだまだすべきことは山積しています」

                  ◇

【プロフィル】宮内義彦

 みやうち・よしひこ 1960年日綿實業(現双日)入社。64年4月オリエント・リース(現オリックス)入社。70年3月取締役、80年12月代表取締役社長・グループCEO、2000年4月代表取締役会長・グループCEO、14年6月からシニア・チェアマン。ACCESS、三菱UFJ証券ホールディングス、カルビー社外取締役。