【プロジェクト最前線】新生銀行 住宅ローン「安心パックW」

安心パックWと安心パックのパンフレット
安心パックWと安心パックのパンフレット【拡大】

  • 安心パックWを開発した新生銀行の種子島一美執行役員住宅ローン部長
  • ガイカを使った決済のイメージ(ビザ・ワールドワイド・ジャパン提供)

 ■顧客目線徹底 共働き世帯の不安に対応

 共働き世帯が増える中で、新生銀行が販売する住宅ローン「安心パック」と「安心パックW(ダブル)」が人気を集めている。金利競争が主流の住宅ローン商戦において、返済に困らなくするためにはどうすればよいか、徹底した顧客目線に立つことで誕生した商品だ。

 ◆リスク最小で差別化

 「住宅ローンは伝統的な商品だが、昔から商品性はほとんど変わっていない」

 商品開発の中心メンバーで執行役員住宅ローン部長の種子島一美氏はそう語る。同行が住宅ローンの販売を始めたのは2002年。金融機関としては後発組だが、新しい発想で他社と違う商品を作ることができれば商機はあると感じた。

 その際に重視したのが、顧客の視点だ。顧客が一番困るのはローンが返せなくなること。最悪の場合、自宅を手放すことにもなる。こうしたリスクを最小化することで差別化が図れると考え、12年に商品化したのが「安心パック」だった。

 所定の要介護状態になれば保険でローン返済が可能となる「安心保障付団信」や、繰り上げ返済で元本を早めに減らしておけば、子供の進学や単身赴任などで思わぬ家計の負担増が生じた場合に返済額を金利分だけにできる「コントロール返済」を付帯した。いずれも画期的な取り組みで、問い合わせが殺到した。

 ◆「病児保育」と「家事代行」

 安心パックの成功を足がかりに14年に投入したのが、「病児保育」と「家事代行」という2つの新サービスを付け加えた「安心パックW」だ。主に共働き世帯をターゲットにした商品で、両サービスが無料で受けられるクーポンが付いてくる。

 このサービスも住宅ローンが払えなくなるリスクの回避を追求し続け、たどり着いた一つの答えだという。「結婚や出産・育児などをきっかけに仕事が続けられなくなった仲間を何人も見てきた」と種子島氏。従来の住宅ローンは世帯主の年収で融資額や返済計画をたてるのが一般的だが、共働きが多くなってきた現在は、世帯年収でローンを組む人も少なくない。その際、女性が仕事を続けられなくなるリスクをできるだけ減らす発想で考案した。

 商品開発に当たっては、行内の女性職員へのヒアリングも実施。育児では子供が病気になったときの対応に悩む人が多かったという。ただ、「サービスの追加で金利が上がるならいらない」という声もあり、金利は上げずに事務取扱手数料を取る形にした。

 家事代行は種子島氏が自らサービスを体験して導入を決めた。もともとは家事代行には否定的な立場だったという種子島氏。「家事にお金を払うなんて理解ができなかったが、使ってみると手放せなくなった」といい、現在は定期的に家事代行を頼むようになった。

 ◆予想超えた反響

 仕事をしながら家事をするとなると、掃除機をかけたり食事を作るなど最低限のことはするが、窓ふきや床の雑巾がけなどは目をつぶってしまいがちだという。

 「毎朝カーテンを開いて汚い窓をみることが、実はすごいストレスになっていた。家事代行を使い始めてからは本当に気分爽快」と話す。

 顧客からは「夫婦げんかが減った」「家事代行のスタッフに掃除や料理のコツを教えてもらった」など、当初の予想を超えた反響が寄せられているという。

 住宅購入は家族にとって重大イベントで、住宅ローンは生涯最大の借金でもある。しかし、不動産会社の紹介や給与口座だからという理由だけで、住宅ローンを決める人はまだ多いという。

 種子島氏は「返済までの30年や35年という長い期間を考えれば、所得の変動や家庭環境が変わらない人はいない。そうしたリスクを減らして安心できる住宅ローンを今後も提供し差別化を図っていきたい」と話している。(蕎麦谷里志)

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 ≪焦点≫

 ■プリペイドカード事業にも注力

 新生銀行は海外向けプリペイドカード事業にも参入しており、2015年にグループのアプラスが「GAICA(ガイカ)」というカードを発行している。4月からは、買い物でガイカを使うと共通ポイント「Tポイント」がたまるようにサービスを拡充しており、今後も利用者は増えそうだ。

 プリペイドカードは事前に入金しておくことで、決済に使うことが可能となるカード。クレジットカードのように、使いすぎや後から膨大な請求が来る心配が無い。落としたり盗まれたりした際も、被害額は最大でも事前にチャージした分なので、銀行口座と結びついたデビットカードよりも安全性が高いという特徴がある。

 ビザ・ワールドワイド・ジャパンと提携しており、チャージしておけば世界200以上の国と地域のATM(現金自動預払機)から現地通貨が引き出せるほか、ビザが使える店舗であれば決済に使うこともできる。昨年7月からは非接触IC決済にも対応させた。

 新生銀行の担当者は「海外旅行や出張などでの活用はもちろん、留学した子供への送金に使っている人も多い」と語る。子供名義の新生銀行の口座に生活費を入れておけば、海外にいる子供が好きなときにカードにチャージできるようになり、現金を海外送金するよりも安く済むからだという。

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 ■新生銀行

 【本社】東京都中央区日本橋室町2-4-3

 【創立】1952年12月

 【資本金】5122億円

 【総資産】9兆2583億円(連結)

 【貸出金】4兆8334億円(同)

 【従業員数】5360人(同)

 【事業内容】リテールバンキング業務、コンシューマーファイナンス業務、法人向け業務

 ※いずれも2017年3月31日時点

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 月曜日に掲載してきた「ビジネスのつぼ」は「プロジェクト最前線」に衣替えしました。企業の成長の鍵を握るプロジェクトの舞台裏に迫ります。