【リーダーの素顔】モンゴル路線バスの黒煙退治に一役

セラミックフィルターを持つ、コモテックの小森正憲社長
セラミックフィルターを持つ、コモテックの小森正憲社長【拡大】

 □コモテック社長・小森正憲さん

 ディーゼルエンジンの排ガス中の黒煙と粒子状物質(PM)を除去するDPF装置で環境や世の中を変えたい。そんなビジョンを描いてきたコモテック(埼玉県春日部市)が海外市場の開拓に挑戦している。昨年にはモンゴルの首都、ウランバートルで取り組む路線バスの黒煙低減事業が国際協力機構(JICA)の普及・実証事業に採択され、足かけ7年の構想をビジネスにしようと奮闘中だ。

 --DPF「モコビー」の特徴は

 「車両や建機に簡単に低価格で後付けできる点と、黒煙除去率99.9%以上、PM除去率90%以上という高い性能です。セラミック製フィルターも再生装置に入れて復活できます」

 --1996年の設立から、紆余(うよ)曲折の連続だったとか

 「設立当初は鳴かず飛ばず。それが2003年の石原慎太郎東京都知事(当時)が主導した『ディーゼル車NO作戦』の環境規制で注目され、消防車や警察車両、公営バスなど3000台以上に採用されました。でも普及すると需要が激減し、今度はくい打ち機やクレーンなどレンタル建機向けの市場を開拓しました。建機からの黒煙で近隣住民から苦情が出ている工事や、換気が難しいトンネル工事でニーズがあり、2000台以上に導入しました」

 --海外市場開拓に注力する

 「12年頃に中国で売り込みましたが、技術をまねされ、注文はそれっきり。環境展示会に出展しても引き合いは多いが、なかなか定期的な受注につながらない。ただ、中国の環境規制が強化され、地方政府関係者の本気度が変わったとも感じています」

 --モンゴルの路線バスでの取り組みのきっかけは

 「モンゴルでは路線バスの黒煙が環境汚染の原因の一つです。コモテックの取り組みは、来日したウランバートル市のバス会社社長が中小企業展の当社ブースを訪れ、関心を示したことが始まり。12年に同市の大気汚染の行政研修団から、ぜひとも路線バスに導入したいと期待されました」

 --JICAが協力している

 「取り組みが本格的に動き出したのは、15年1月に同市を訪問し、再会した研修団メンバーから改めて路線バスへの搭載を熱望されたとき。2月の再訪問時には、具体的な黒煙除去計画をモンゴル政府にアピールしました。帰国後、JICAの海外調査の補助金事業の締め切りが4月に迫っていると分かったので、現地で走行試験をしながら提案書を作りました」

 --モンゴルでの環境対策の必要性は大きい

 「モンゴルのブロック製造会社社長から、日本語で書かれた切実なメールを受け取ったことがあります。厳冬期に換気できない工場内でフォークリフトを動かすと黒煙で息ができないので、モコビーで社員を守りたいというのです。その後、相手に予算がないと分かったのですが、人助けと思って3台を無償提供しました」

 --路線バスでの取り組みの進捗(しんちょく)状況と課題は

 「昨年11月、事業化を前提にしたJICAの普及・実証試験に採用され、事業がスタートしました。来年9月までに具体的な販売方法やバス会社へのメンテナンスの研修、法的制度設計の提案などの次のステップに進みたいと思っています」(上原すみ子)

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【プロフィル】小森正憲

 こもり・まさのり 1969年北大工卒、川崎重工業入社、北大工学部修士課程機械工学修了、74年日産ディーゼル工業(現UDトラックス)に入社し、ディーゼルエンジンの研究開発に従事する。96年12月にコモテックを設立。社長に就任した。72歳。埼玉県出身。

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 ≪DATA≫

 【転機】北大で修士課程修了後、日産ディーゼル工業に入社。そこから、官民が1987年に新型自動車用ディーゼルエンジン技術開発のために設立した「新燃焼システム研究所」へ出向した。「優秀だが、会社の枠にはまらない人材が多く」、切磋琢磨(せっさたくま)できる環境の中で「世の中にないオンリーワンを目指したいとの気概が生まれたと思う」

 【経営理念】「世のため、人のためになることをやりたい」という思いの下で、「ジョブ・ウィズ・ドリーム」を行動姿勢に掲げている。「上司は部下に夢を与えるのが仕事で、社員は夢をもって仕事をしないといけない」

 【起業のきっかけ】胸のうちにあったのは「排ガス規制強化で使えなくなる古いディーゼルエンジンを救いたい」との一心だった。日産ディーゼルで後付けできるDPFの開発・販売の社内ベンチャーの設立を提案したが、あえなく却下。会社には開発魂がないと奮起し、「自分がやらないで誰がやる」と起業した。