【高論卓説】エレキギター老舗のギブソン破産 楽器離れで市場低迷、打開できず (2/2ページ)

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 中学生になった頃、ロックやフォークがはやり始めた。当時はクラスの男子のほとんど全員がギターを弾いているのではないかと思えるくらいにギターがはやった。プロのギタリストは皆ギブソンやフェンダー、マーチンという米国のブランドのギターを使っていて、こうしたブランドを使っているかどうかでプロかアマチュアなのかを区別していたように思う。

 ではアマチュアはどんなギターを使っていたのかというと、ギブソンに似たグレコ、フェンダーにはフェルナンデス、マーチンにはモーリスなどの国産のコピーモデルで、遠目からは本物そっくりに見えるロゴがギターのヘッドに堂々と書かれていた。

 ざっくりと当時の価格差は30万円対5万円。国産もレコード屋のギターからは随分進化して高品質になっていたが、ギブソンなどは中高生に手が出るような楽器ではなく“神”のようにあがめたものだ。

 今でも「ギブソン」のブランドは盤石だから、事業をギターに絞りさえすれば会社再生は難しくはないだろう。しかしその一方で、昔コピーモデルを作っていた国産メーカーのギター製造技術は今や本家を追い付き追い越してしまって、今どきのギター少年たちは、昔僕らがギブソンをあがめたほどには、こうしたブランドに執着はないようだ。材料をえりすぐったモデルの中にはギブソンよりも高価な国産ギターはいくらでもある。この分野の日本の技術も文化も成熟しているのだ。

 年を取って疎遠になっていたギターの世界、くしくもギブソンの破産が古い思い出を呼び起こしてくれた。そしてギブソンの業績低迷の理由の一つに、成熟した社会の多様化したユーザーのニーズとライバルたちの出現による競争の激化も加えるべきだろうと思ったのだ。

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【プロフィル】板谷敏彦

 いたや・としひこ 作家。関西学院大経卒。内外大手証券会社を経て日本版ヘッジファンドを創設。兵庫県出身。著書は『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮社)『日本人のための第一次世界大戦史』(毎日新聞出版)など。62歳。