【日本発!起業家の挑戦】予約・顧客情報管理で飲食店業務最適化


【拡大】

 □TableCheck代表取締役・谷口優氏に聞く

 創業間もないスタートアップが、ユーザーを獲得するために製品の無料版を用意することはよくある。潜在顧客に低リスクで製品を試してもらうことで評価を高め、顧客獲得につなげた企業は確かに多い。しかし、最初から顧客に製品を売る方が理にかなっていて、収益を早く出せる場合もある。TableCheck(東京都中央区)は、飲食店・レストラン向けの予約および顧客の管理台帳サービス「TableSolution」、そして一般消費者向けのネット予約サービス「TableCheck」を提供する。

 代表取締役の谷口優氏に、サービスの特徴や展望について、さらに異なる分野や海外市場への進出についても聞いた。

 ◆有料に値する製品を

 --レストラン予約の市場は大変競争が激しいですよね。TableCheckのサービスと競合サービスの違いは

 「僕たちは、ネット予約の最大活用により、レストラン業務の最適化や消費者の利便性向上を図るサービスを提供しています。これはぐるなび、食べログといった、サイトの登録店舗全体に対してお客さまを送客することに特化した、集客がメインのサービスとは直接競合しません。13年前にサンフランシスコでレストランを予約しようとしたら『ネットでできます』と、電話を切られてしまったことがありました。そんなネット予約が普及しているアメリカでは考えられないかもしれませんが、僕たちの最大の競合は、予約を管理するためにいまだによく使われている『紙の台帳と鉛筆』です。昨年からTableCheckという予約ポータルサイトおよびアプリも始めましたが、これはTableSolutionを導入するレストランを横断的に検索し、ネット予約ができるサービスです。レストランが予約と顧客情報を一元管理できる総合的なシステムを提供することによって『最高のレストラン体験を実現する』ことを目指しています」

 --つまり、機能が違う

 「というよりは、飲食店・レストランとの関係が違っています。予約サイトの多くは、サイトを通じた予約の数に従って送客手数料を取るシステムを採用しています。ですからサイトとレストランの関係は取引ベースになります。一方、僕たちはレストランの規模に応じて毎月1万2000円から2万円の定額を課金して、TableSolutionおよびTableCheckを提供しています。レストランは、自店舗の公式サイトやSNSページなどにTableCheckのリンクを用意し、そこから送客手数料をかけずに予約を受け付けることができます」

 --SaaS(サービスとしてのソフトウエア)を提供する企業は無料版を用意していることがほとんどです。なぜフリーミアムモデル(基本サービスを多数のユーザーに無料で提供し、高機能の有償サービスで収益を上げる事業モデル)を採用しなかったのですか

 「フリーミアムから、広告収入に頼るモデルまでさまざまな収益モデルを検討し、試してみた結果、無料版は設けないことにしたんです。簡単に決めたわけではなかったんですよ。製品開発時に、300以上のレストランオーナーやマネジャーに話を聞きました。その大半が、日々の予約や顧客の管理が今よりもスムーズになると確信できるなら、月に1万円ぐらい喜んで払うと言ったんです。そこで、レストランのスタッフにとって仕事がやりやすくなるサービスを作ることに力を注いだんです。彼らの要望を満たし、有料で使ってもらうに値する製品を開発しました。もちろん、当時は資金が潤沢だったわけではないので、顧客に料金を支払ってもらえるなら早いに越したことはないという状況ではありましたけれどね」

 --なるほど。レストランが新しい製品を使うときにはそれまでの業務プロセスを変えると同時にスタッフを新しいシステムに慣れさせることが必要ですから、導入コストのほとんどは研修の費用になりますね。そのような顧客にとって、無料と月1万2000円の差は大きくありませんね

 「はい。製品の導入によって最大限の効果を得るには、システムを理解して使いこなすまでの時間がかかります。無料版を受け身で少し使ってみたところであまり収穫はありません。たとえば、TableSolutionでは、レストランを訪れたお客さまの嗜好(しこう)に関するデータを集めたり、一人一人のライフタイムバリューや収益性を計算したりすることができます。しかし、その情報を管理して経営に生かすにはシステムを長期的に使わなければなりません」

 ◆価値あるデータ収集

 --現在何店舗のレストランと契約しているのですか

 「国内外15カ国、2200を超える飲食店・レストランがTableSolutionを導入しています。ヒルトンやインターコンチネンタルといった世界規模のホテルチェーンや星付きレストランにも使っていただいています。日本での成功を足がかりにして海外展開を進めるのが戦略です。まず日本国内にあるグローバルホテルチェーンの全レストランがTableSolutionを使う。次にタイやベトナムなどASEAN諸国にある同ホテルチェーンへ向けて世界規模でシステム導入を加速させるといった具合です。昨年韓国に、今年はシンガポールにオフィスを設立しました。飲食店の予約・顧客管理に関するニーズはだいたい万国共通ですが、国ごとの特殊なルールや他サービスとの連携などで各国の事情に合わせたカスタマイズをしています」

 --海外展開が進んでいて素晴らしいですね。米国企業はよくトップダウンの戦略で、まず米国の本部で製品を試し、その後、各国の支店でもそれに倣って新システムを標準とすることを強制します。日本のスタートアップが似たようなことをボトムアップで成し遂げていると聞くのはうれしいですね

 「日本のインターネットサービスがグローバル市場を牽引(けんいん)するリーダーになったことはありません。TableCheckの提供するサービスがそのような存在になれればいいですね」

 --レストランの予約・顧客管理を通じて、さまざまな価値あるデータにアクセスができるようですね。たとえば、先月は20代の女性たちからクリームソース系パスタの注文が増えて、トマトソース系パスタの注文が減ったとか、いつもに比べてワインの注文が伸びているといった情報です。レストランはそういったデータがあればメニューを検討し直したりキャンペーンを計画したりできて、非常に役立つでしょうね

 「そうなんです。収集したデータを利用したサービスの提供は、長期的な事業計画の重要な部分を占めます。同じデータを使って消費者目線でのサービスもあり得ますね。たとえば、あなたはスパゲティ・ボロネーゼが大好きだとしましょう。従来の口コミサイトはレストラン全体の評価を示していて、スパゲティ・ボロネーゼの評価ではないので、あなたの好みに応じた要望には十分応えることができません。その点、TableSolutionは予約や顧客にひもづく来店前~利用後までの情報を一貫して蓄積しているので、そのデータを活用して、例えばスパゲティ・ボロネーゼをよく注文されるレストランをお勧めしたり、スパゲティ・ボロネーゼが大好きなお客さまがよく訪れるレストランをピンポイントでお勧めしたりできる」

 --お勧めレストランの表示の仕方として非常に効果がありそうですね。しかし、飲食業界は保守的でそうしたツールの導入を躊躇(ちゅうちょ)するのでは

 「すぐにでも採用するお店もあれば、様子を見てから時間をかけて導入に踏み切るところもあるでしょうね。しかし、データを用いたツールの価値は非常に高いので、いずれは大半の飲食店が導入するようになると考えています」

 --2013年にBeautySolutionという美容院向けの予約管理サービスもスタートしましたが、その後サービスの提供を中止しました。その理由は

 「当時は、レストラン向けのプラットフォームを他の分野に活用できるのではないかと考えていました。美容院の他にも、お稽古やレッスン、イベント、病院やクリニックなどの予約に使えると思ったんです。しかし、2つ問題が出てきました。まず、開発のための資源が限られていたうえに、既存の飲食店顧客からシステム改善のあらゆる要望が上がっていたこと。もう一つは、美容業界に対して僕自身があまり情熱を傾けられなかったことです。僕はレストランで食事をするのが大好きで、飲食業界のことを考えるとわくわくします。でも美容院に行ってお話を聞いても、レストランで感じるのと同じレベルの興味や情熱をヘアスタイルやカットには感じることができません。最高のサービスを提供できる分野に絞るのが、明らかに正しい選択だと思いました」

                  ◇

 谷口氏の説明を聞くと、TableCheckが飲食店・レストランの管理サービスの提供に絞った決断は常識的に聞こえるかもしれない。しかし、実は多くのVCは反対の戦略を勧める。スタートアップで一般的に取られる戦略は、技術を確立し、1つのニッチ市場でその効果を証明したら、すぐに別のニッチ市場に同技術を使い回すというやり方だ。しかし、スタートアップが成功するための要素として、技術は彼らが思うほど重要ではない。特定のグループの顧客に支持されることに全力を傾けるという谷口氏の戦略には強みがある。業界を知り尽くし、顧客の特定のニーズに訴求するサービスを作り上げることができれば、世界で1つだけのユニークなサービスが生まれるからだ。最終的に、技術が競争上の優位性をもたらすことは多くない。成功の鍵は、顧客をいかに理解し、どのような関係を結べるかということに尽きるのだろう。

 文:ティム・ロメロ

 訳:堀まどか

                  ◇

【プロフィル】ティム・ロメロ

 米国出身。東京に拠点を置き、起業家として活躍。20年以上前に来日し、以来複数の会社を立ち上げ、売却。“Disrupting Japan”(日本をディスラプトする)と題するポッドキャストを主催するほか、起業家のメンター及び投資家としても日本のスタートアップコミュニティーに深く関与する。公式ホームページ=http://www.t3.org、ポッドキャスト=http://www.disruptingjapan.com/