【道標】W杯熱狂の中、功罪を問う 批判に耳貸さぬFIFA、露スポーツ界 (1/2ページ)

聖ワシリイ大聖堂の前にサッカーW杯ロシア大会の旗(AP)
聖ワシリイ大聖堂の前にサッカーW杯ロシア大会の旗(AP)【拡大】

  • 坂上康博・一橋大教授

 ロシアでは、2013年夏のユニバーシアード大会を皮切りに、世界陸上選手権、ソチ冬季五輪、世界水泳選手権などの国際的なスポーツ大会が次々と開催されてきた。

 そして、10億人が決勝を視聴するといわれるサッカー・ワールドカップ(W杯)が、14日に開幕する。世界的注目が集まる巨大イベントの開催によって「大国ロシア」の復活が内外にアピールされ、世界がそれを称賛する-。ロシアの政府や国民の期待はこのようなものであったろう。

 しかし、16年に公表された世界反ドーピング機関(WADA)の報告書の衝撃が、こうした期待を一気に打ち砕いた。ロシアは、政府主導で組織ぐるみのドーピングを行い、12年のロンドン五輪をはじめ、翌年に自国で開催されたユニバーシアード大会と世界陸上でもドーピングを繰り返し、その手口がソチ五輪で「巧妙化」された。WADAの報告書によって、メダル至上主義による腐敗したロシアのスポーツ界の実態が白日の下にさらされたのだ。

 また、ロシアは14年のウクライナ南部クリミア半島の編入、東部紛争への介入、そして独裁が批判されているシリアのアサド大統領の後ろ盾となる軍事行動などによって、欧米との対立を深め、その状況は「新冷戦」と言われるほど悪化した。

 こうしてロシアで次々と開催される国際的なスポーツ大会の最後を飾るW杯は、当初の期待とは正反対の世界的な逆風の中で迎えることになったのである。ジョンソン英外相が、ロシアW杯をナチス・ドイツが開催した1936年のベルリン五輪に例え、ロシア政府のPRに使われていると批判したのは、それを象徴するものである。

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