【知恵の経営】勝利至上主義の功罪 アタックス研究員・坂本洋介

 日本大学アメフト部の関西学院大学との練習試合での悪質タックル問題は、まだ読者の記憶に鮮明に残っていることと思う。その試合中に、日大選手が無防備になった相手選手に背後から悪質なタックルをしたことで、けがを負わせた問題だ。

 その後も、監督・コーチ、学長・理事長の会見内容など、さまざまな問題が巻き起こっているが、そのなかで気になったことがあった。それが「勝利至上主義」についてだ。

 勝利至上主義とは、スポーツ競技などで、相手に勝つことだけを絶対的な目標とする考え方である。勝負事は勝たなければ意味がないという意見はよく聞く。確かに現在開催されているサッカー・ワールドカップ(W杯)で私たちが熱狂するのも、日本代表が勝利している事実があるからだ。

 ただ、スポーツにおいて確かに勝敗の有無は重要だろうが、ビジネスの面でも勝利至上主義の考えがあるようだ。ビジネスも「取った、取られた」の勝負の世界。いかに競合に勝つかを常に考えている。

 この考えが、企業の競争力・成長力につながっていることは否定しないが、勝ち負けにこだわりすぎると、会社も社員も疲弊し、逆にパフォーマンスを下げることになる。日大のアメフト部と同様に、たとえ勝負に勝ったとしても、誰も幸せにならないことも多いのである。

 この問題を考えるとき、本連載執筆者である坂本光司氏が、今年3月に法政大学大学院を退任された際の最終講義を思い出した。そのなかで企業経営の目的・使命を間違っている人が多いと前置きし、「企業経営の目的は業績を高めることでも、ライバル企業との勝ち負けを競うことでもなく、関係する人々の幸せの追求・実現をすること」と言い切った。

 さらに業績は重要だが、企業経営の目的ではなく、目的を実現するための手段もしくは結果にすぎないとした上で、「手段や結果である業績や勝ち負けを目的とした経営を実践すると、必ず誰かを不幸にする。企業経営の失敗はほとんどがこれである。関係する人々が幸せを実感し、働きがいの高い企業で、業績が低い企業は歴史上存在しない」と指摘した。

 一方で、「業績や勝ち負けを過度に追求し、企業経営の最大の目的・使命をおろそかにしたり、ないがしろにした企業で、長期にわたり繁栄した企業は存在しない」と続けた。

 勝利至上主義は文字通り勝つことが最優先され、最終的にはそのためなら手段はいとわないという考えに行き着き、本来の企業目的を見失うことになる。

 今回の問題は、企業経営にとって、「何が最も重要か」を今一度考えてみるチャンスかもしれない。

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