ものづくり大国ニッポンを支える中小企業で、後継者不足が深刻化している。政府は今年度から、事業承継が円滑に進むよう株式相続の課税猶予を行うなど取り組みを本格化した。現場の苦悩と取り組みを追う。
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「工場の音が聞こえへん…」
ガレージほどのスペースしかない工場では、金属を削る音が響き、溶接の火花が散る。職人たちは、段ボールに詰められたボルトを手にとっては仕上がりを確かめている。
「歯ブラシから人工衛星まで」ともいわれる、ものづくりの町・大阪府東大阪市。プラスチック加工、板金、各種ネジ製作…。さまざまな看板を掲げた町工場など約6千社がひしめき合う。
東大阪市は、東京都大田区と並ぶ中小企業の町として有名だが、最近ではシャッターが固く閉ざされ、看板の文字がはがれ落ちた工場も少なくない。
「職人は70歳以上ばかり。海外から研修生を受け入れても3年くらいで帰ってしまう。もうやめるしかない」。数年前、鋳物業の70代の社長が市担当者に打ち明けた。後継者もおらず、従業員を他社に引き継いで工場をたたんだ。赤字でなくても廃業に追い込まれるケースが増えている。
「工場の音が聞こえへんと思ったら、いつの間にか駐車場やマンションになっていた」。市内の50代の女性はため息をついた。