【インターネットWatch】近代科学社、“売れない理工学書”積極的に出版

「近代科学社DIGITAL」プレオープンサイト
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 ■大学研究者から原稿募る

 理工学書などを手掛ける出版社の近代科学社(東京都新宿区)は、大学研究者のための出版サービスブランド「近代科学社DIGITAL」を立ち上げた。大学に所属する理系研究者から広く原稿・企画を募り、同ブランドで積極的に出版していく。

 在庫を持たないプリントオンデマンド(POD)および電子書籍での出版に特化することで、一般的な自費出版と比べ、著者が負担する費用を安価に抑える。さらに、発行元が近代科学社ということで、書籍にISBNコード(国際標準図書番号)が付与される。POD出版物を扱うAmazon.co.jpなどのインターネット書店や三省堂書店のほか、近代科学社の既存の販売網を活用し、大学生協の学内書店でも販売できるのが特徴だ。

 ◆まず世の中に出す

 近代科学社が従来、通常の書籍として出版していた大学研究者の著作物は、年間30タイトル程度にとどまっていた。同社が扱う理工学専門書などは、初版1000部程度の規模が通常であり、商業ベースでの採算が厳しい場合も多いという。この規模の販売部数も見込めないような分野もあり、専門性が高くなればなるほど出版へのハードルが高くなる。そのため、書籍化が実現するのは、著名な研究者や売れ筋のテーマなどに限られるのが実情だった。

 これに対し、近代科学社DIGITALでは、“売れるか・売れないか”という出版社側の都合で書籍化の可否を判断するのではなく、著者自身の判断で、論文や研究成果などを書籍化できるようにするのが狙いだ。PODのため、従来の専門書よりもさらに販売部数の少ない書籍にも対応できる。大学の教授・准教授のほか、講師や研究員、大学院の博士課程在学者も対象となっており、これまで出版社との接点がなかった研究者や地方の大学の研究者も広く出版の機会が得られるとしている。近代科学社DIGITALは、まず初年度に年間100タイトルの刊行を目指す。

 ただ、近代科学社DIGITALは、持ち込まれた企画・原稿を全て書籍化するわけではない。同社が発行する書籍として流通させることから、受け付け時に審査がある。詳細な審査基準は公表していないが、“売れるか・売れないか”は審査基準としないことは明言。「まず世の中に出すことを優先する」としている。

 また、PODでコストを抑えるとはいえ、編集・制作・流通などの業務にかかるコストは発生する。そこで近代科学社DIGITALでは、出版社と著者との“共同出版プロジェクト”というかたちを取る。“売れるか・売れないか”が分からない書籍の出版リスクを、双方で分担するわけだ。具体的には、著者に出版分担金を負担してもらう予定だ。分担金は、1タイトルにつき30万円を基本に想定しているが、通常の自費出版よりも安価だとしている。

 一方、売り上げに応じて著者に支払われる印税は、通常の書籍(10%)よりも高い率を設定する方針だ。

 このほか、出版コストを抑える方法として、見出しや本文、箇条書きなどの既定のレイアウトを決めたスタイルファイルを著者に使用してもらうことで、編集・制作コストを削減する仕組みも用意する。著者が既に作成してある文書を、既定のスタイルファイルに変換できるツールも開発中という。

 ◆教科書に活用可能

 近代科学社DIGITALは現在、プレオープン段階であり、10月31日までに完成できる原稿を対象に、出版分担金無料で応募を受け付け中だ。印刷される書籍は、A5判またはB5判の並製・カバーなし。モノクロとカラーに対応し、最低50ページから出版できる。

 近代科学社DIGITALは、グループ会社であるインプレスR&D(東京都新宿区)が展開する電子書籍・PODによる出版プラットフォーム「NextPublishing」を活用する。今回、近代科学社とインプレスR&Dが協業することで、同プラットフォームの仕組みを大学研究者の出版物に拡大していきたい考えだ。これまでに書籍化されていなかった研究成果や論文、新規の原稿をはじめ、一度は通常の書籍として出版されたものの、“売れるか・売れないか”の判断から実現できなかった改訂版の出版や、さらには大学の教科書などにも、近代科学社DIGITALを活用できるとアピールしている。

 なお、近代科学社DIGITALは理系専門だが、人文系の出版については「アスパラ」というサービスを既に提供している。アスパラは、イースト(東京都渋谷区)、マイクロコンテンツ(東京都渋谷区)、インプレスR&Dの3社による共同事業で、学者や研究者が専門書・学術書をISBNコード付きでPOD・電子書籍出版するのを支援するサービスだ。(インプレスウオッチ)