【高論卓説】被災3県に顕著な起業ブーム 「ユートピア」ベンチャー地帯ほうふつ (2/2ページ)

 福島県から宮城県を経て岩手県に至る、被災3県の中小企業の業界に顕著な起業ブームが起きている。17年版中小企業白書によると、前年度に比べて増加した企業の水準を表す開業率は、15年度に福島と宮城が5.3%、岩手が3.4%だった。福島と宮城は東京都と大阪府の5.9%に次ぐ水準で、都道府県別では上位に位置する。

 被災地の起業ブームは、司馬さんのロボット製造会社のように、震災の被害から脱する手助けになろうという「利他性」が特徴である。『災害ユートピア』(レベッカ・ソルニット著、高月園子訳)は、人間は大規模な災害に遭遇すると、利他性がある行動を取ることを歴史的に解明している。

 米国で05年にハリケーン・カトリーナが襲ったニューオーリンズ州もその例である。東日本大震災の際にみられたように、被災者は互いに食糧や水を分かち合った。そして、カトリーナが壊滅的な打撃を与えた石油産業や観光業に代わる起業ブームが起きた。いまや西海岸と並ぶベンチャー地帯である。

 振り返れば、日本の関東大震災も起業をもたらした。トヨタ自動車の創業者である豊田佐吉は、大震災に遭遇して必要な乗用車が輸入だったので、半年から1年もかかる現実から国産化を思い至った。シャープの前身である早川電機の創業者の早川徳次は、震災で家族を失って大阪で再起を期した。

 被災3県もまた、災害から立ち上がった「ユートピア」のベンチャー地帯である。

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【プロフィル】田部康喜

 たべ・こうき 東日本国際大学客員教授。東北大法卒。朝日新聞経済記者を20年近く務め、論説委員、ソフトバンク広報室長などを経て現職。62歳。福島県出身。