弁当「牛肉どまん中」の味にひかれる。その秘密は、JR米沢駅前の新杵屋本社にあった。2階建ての本社ビルと隣の工場でこの弁当は作られている。工場といってもベルトコンベヤーなどはなく、手で扱う道具や容器ばかり。清潔感ある厨房(ちゅうぼう)台の上で、女性従業員が弁当箱に具を詰め、最後に白ごまとパセリをのせて蓋を閉め、特注ラックに入れて完成だ。「機械では、この味が出せない」と小島芳博常務(52)はいう。
牛肉どまん中の味を知らない人は少ないだろう。首都圏のデパートの弁当フェアには必ず登場するのが、この弁当だ。1992年の山形新幹線開業に合わせて、翌93年に誕生、今年26年目になる。粘りが少なく、冷めても味の変わりにくい山形県のコメ「どまんなか」を使い特製ダレで牛肉に味をつける。
父が作った弁当
牛肉どまん中には、先輩がいた。舩山栄太郎社長の父、栄一氏が作った牛肉弁当だ。戦前、東京・銀座の銀座風月堂(ふうげつどう)で洋菓子修業した栄一氏は46年、同店で覚えたアイスクリームを米沢市で製造販売した。市内でまだアイスクリームを売る店はなく、瞬く間に人気となった。
ハイカラな栄一氏は58年「牛肉弁当」を売り出す。米沢駅近郊の自宅脇に工場を建て、その中で弁当を作り販売した。当時では珍しい、ご飯の上におかずを乗せる“のせ弁”。米沢名産の牛肉と糸こんにゃくをすき焼き風に煮た具をご飯に乗せた弁当だ。まだ幕の内弁当一辺倒だった時代、この牛肉弁当は売れ、福島県や山形県の弁当屋がまねをするようになった。