【高論卓説】AIを極端に恐れる必要ない ヒトに及ばず、何ができるか見極め大事 (2/2ページ)

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 しかし、AIが登場する、はるか以前からメカニカルな機械による合理化は進んでおり、単純労働者は次第に駆逐された。先進国では産業従事者の構成比は歴史的に農業から工業、サービス業主体へと変遷してきたわけで、なくなる仕事もあれば新しく創出される仕事もある。昭和30年代のサラリーマンにシステムエンジニアやネイルサロンという仕事は想像ができなかっただろう。

 物理生物学者の松田雄馬氏によると、現状ではAIが人間の持つ生物としての知能並みの知性を得る可能性も、その糸口さえも見つかっていないのだそうだ。従ってAIの漠然としたイメージにおびえるよりも、AIによって具体的に何ができて何ができないのか、現実の自分たちの仕事を見つめ直すことが大切なのではないだろうか。

 一方でフォードの逸話に戻るが、AIの発達に伴う経済的な成果の極端に偏った分配は、言い換えれば拡大する富の偏在や中間層の喪失は、ルーサーがフォードII世に言い返したように、最終的に大切な消費者を失い、AI発達の障害にもなりかねないだろう。

                  

【プロフィル】板谷敏彦

 いたや・としひこ 作家。関西学院大経卒。内外大手証券会社を経て日本版ヘッジファンドを創設。兵庫県出身。著書は『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮社)『日本人のための第一次世界大戦史』(毎日新聞出版)など。62歳。