【奈良発 輝く】杜氏制度を廃し、新しい醸造に挑む 梅乃宿酒造の挑戦 (1/3ページ)

大きなタンクが並ぶ梅乃宿酒造の清酒蔵=奈良県葛城市
大きなタンクが並ぶ梅乃宿酒造の清酒蔵=奈良県葛城市【拡大】

  • 吉田佳代社長
  • 日本酒ベースのリキュール「あらごしみかん」

 奈良県北西部にある葛城山の麓で、126年前に創業した梅乃宿酒造。春になると、蔵の庭にある樹齢300年の梅の古木に鶯(うぐいす)が飛来し、さえずりを楽しませてくれるという風雅な屋号の酒蔵は、新たな飛躍に向けて進んでいる。

 日本酒製造課長の上田和彦氏(36)は「醸造責任者」なる肩書を持つ。「昨年からうちには杜氏(とうじ)がいない。杜氏に代わって酒造りを任されたのが醸造責任者」と説明してくれた。

 ◆勘よりデータ重視

 酒の味を決め、仕込みの全ての工程について全責任を持つ杜氏は、酒蔵の顔と言うべき存在だ。だが、同社では杜氏制度をなくし、2017年度から製造部長と日本酒製造課長、商品の開発や企画を担う企画開発部の課長の3人をリーダーに据え、酒造りをしている。

 酒造りに直接携わるのは13人の社員だ。米を洗って蒸す担当、酒の元になる酒母(しゅぼ)を造る担当、発酵を管理する担当-などと工程ごとに仕事が細かく分かれている。

 「たとえば、どのような麹(こうじ)を作り、どういう発酵をさせるか。担当者が考えた案について意見を出し合って決める。杜氏がいると、どうしても任せきりになり、他の社員は言われたことしかしない。でも、今のような体制なら、みんなの目的意識が上がり、スキルも向上する」

 新体制を支えているのが、綿密なデータ収集と分析だ。酒の仕込みが始まると、連日20本以上あるタンクからサンプルを取り、計測機器にかけて、アルコール度数や麹がどの程度、米を溶かす力があるかを示す麹の力価(りきか)などのデータを集める。それを参考に醸造の進行具合を分析するという。

 上田課長は「酒造りは昔は経験と勘に頼る部分が大きかったが、今はデータを反映させることができるようになった。その年の気候や酒米の出来栄えにより、麹の製法や仕込むときに米に水をどれくらい吸わせるかを微妙に変えている」と語る。

 同社の発展を支えてきた日本酒ベースのリキュールも、研究開発が進んでいる。リーダーの一人、企画開発部の播野(はりの)真平課長(36)はこれまで、ヒット商品のモモやミカン、ユズの果汁、果肉を使ったリキュール開発に携わってきた。

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