地銀がベンチャー投資拡大 超低金利下で収益源を開拓 疲弊した地場産業も活性化


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 地方銀行がベンチャー企業への投資を急速に拡大している。超低金利の長期化で収益力が悪化し、人口減少や高齢化で地域経済の地盤沈下も進む中、地元に限らず高い成長が見込める新たな収益源を開拓するのが狙いだ。ベンチャー企業を育成し地場産業と結びつけることで、疲弊した地域経済の活性化につながるとの期待感もある。

 大小の机が並ぶ開放的な空間で、数組の利用者がノートパソコンを開いて作業していた。スーツ姿の男女に加えTシャツやパーカなど服装もさまざま。福岡銀行を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループ(FFG)が昨年4月、東京・八重洲に設けた地元企業やベンチャー企業向けのサテライトオフィス(出先拠点)だ。

 福岡銀の担当者は「東京のベンチャー企業以外にも福岡など地方企業が出張で利用する。大企業の開発チームや弁護士など多様な利用者が定期的に情報交換会を開いている」と説明した。地元企業がベンチャーと提携して新ビジネスを立ち上げたり、ベンチャーが有力企業に育って融資先になったりする契機となることを想定している。

 宮崎銀行は昨年12月、都内のITベンチャー「ポート」に5千万円を出資した。宮崎県内に拠点があり、地域の雇用に貢献していることが理由だ。担当者は「短期的な収益より、回り回って地域が活性化することを期待している」と話す。

 ベンチャーに詳しいニッセイ基礎研究所の中村洋介主任研究員は、地銀のベンチャー投資が活発化したのは日本銀行による平成25年4月の「異次元緩和」導入後からだと指摘する。全国の地銀による企業育成ファンドに対する出資残高は29年度末で1189億円に上り、25年度末と比べ1・8倍まで増加した。

 緩和に伴う超低金利による貸し出し利ざやの縮小や人口減で、29年度に本業が赤字だった地銀、第二地銀は過半数の54行に上り、うち52行は赤字が2年以上続く。地銀大手幹部は「地元の資金需要が急減し、このままでは生き残れない」と危機感を打ち明ける。ベンチャー投資を通じた融資先の開拓に加え、金融とITが融合したフィンテック分野の技術を取り込むことでコスト削減や業務効率化も望める。

 大都市部に比べヒト、モノ、カネが不足する地方では地銀への期待感が強い。投資規模やノウハウでは大手銀行にかなわないが、地域に埋まったベンチャーの種を発掘し他地域の企業やファンドと結びつける役割も求められる。中村氏は「地銀が軸となってベンチャー育成を通じて東京と地方をつなげば、地場産業を育成し雇用を生み出す。この動きは今後も拡大する」と指摘している。