KDDIが楽天に有利すぎる提携決めた事情 (3/3ページ)

2018年2月13日、決算発表の席上、携帯電話事業への参入計画を説明する楽天の三木谷浩史会長兼社長。突然の発表の裏には、したたかな戦略があった(写真=時事通信フォト)
2018年2月13日、決算発表の席上、携帯電話事業への参入計画を説明する楽天の三木谷浩史会長兼社長。突然の発表の裏には、したたかな戦略があった(写真=時事通信フォト)【拡大】

 三木谷氏が最初に狙っていたのはNTTドコモだった。しかしNTTドコモの吉沢和弘社長は「MVNOとして(NTTドコモの)ネットワークを借りつつ、キャリアとして新規参入し、しかもローミング契約してネットワークを確保しようというのはおかしい」と、楽天へのインフラ貸し出しを渋った。「第4のキャリアを名乗るならネットワークくらい自前で用意しろ」と言いたい気持ちは分からぬでもない。

 ドコモとの交渉が難航すると見た三木谷氏は、ターゲットをドコモのより立場の弱いKDDIに変えた。

KDDIは3キャリアの中で「非通信」が最も弱い

 KDDIの弱み。それは3キャリアの中で「非通信」のサービスが最も弱いことだ。楽天の参入で通信料により菅官房長官が言うような「4割の値下げ」が実現するなら、3キャリアの利益はその分目減りする。「非通信」を伸ばせなければジリ貧である。

 3キャリアの中で「非通信」に一番強いのはソフトバンクグループである。傘下にヤフーをもち、ネットオークションの「ヤフオク」やネット通販の「Yahoo!ショッピング」がある。これらのサービスを使うたびに「Tポイント」が貯まる魅力もある。さらにソフトバンクはライドシェア大手の米ウーバーテクノロジーズや中国・滴滴出行などにも巨額投資を実行。トヨタ自動車ともモビリティーサービスの新会社を立ち上げることで合意した。

 ドコモも「非通信」を育ててきた。定額で200誌以上の人気雑誌が読み放題になる「dマガジン」を先頭に、ネット通販の「dショッピング」やゲーム配信の「dゲーム」などを展開し、それらを使うと貯まる「dポイント」で横串を刺している。

 KDDIは子供が就業体験できる施設「キッザニア」の運営会社を買収したり、英会話のイーオンホールディングスを買収したりしているが、散発的。自社のネット通販「Wowma!(ワウマ)」の知名度は低い。スマホの決済サービスでも大きく出遅れている。楽天の参入で携帯電話料金の価格破壊が予想される中、次なる「飯の種」に最も事欠いていたのがKDDIだった。

「KDDI・楽天連合」は、融合の時代に一歩先んじた

 ネット通販で9870万人の会員を持ち、「楽天スーパーポイント」を浸透させている楽天は、KDDIの弱点を補う存在になりうる。

 海外に目を移せば、米携帯2位のAT&Tがタイムワーナーを買収するなど通信とメディアの融合が進んでいる。通信とネットがすみ分けてきた時代は終わり、プラットフォーマー(総合的なサービス提供者)として生き残るのは誰か、というフェーズに突入した。そう考えれば3キャリアは米国で猛威を振るうアマゾン・ドット・コムやグーグルとも戦わなくてはならない。

 その意味で「KDDI・楽天連合」は、融合の時代に一歩先んじたと言えるかもしれない。だがそれは国内限定の話であり、グローバルにどう戦うかは、また別の話である。

 大西 康之(おおにし・やすゆき)

 ジャーナリスト

 1965年生まれ。88年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。産業部記者、欧州総局(ロンドン駐在)編集委員、「日経ビジネス」編集委員などを経て、2016年に独立。著書に『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)などがある。

 (ジャーナリスト 大西 康之 写真=時事通信フォト)(PRESIDENT Online)