金融商品取引法違反容疑での日産自動車前会長、カルロス・ゴーン容疑者(64)の逮捕を受け、世耕弘成経済産業相とフランスのルメール経済・財務相は22日、パリで会談し、「日産と(仏大手)ルノーの連合が協力関係を維持する意思を両国政府は強く支持する」との共同声明を発表した。ゴーン容疑者の逮捕による混乱を沈静化させる狙いとみられるが、日仏両政府の間には思惑の違いも見え隠れする。
世耕氏は会談後、記者団に「提携のあり方は関係者が合意、納得した上で進めることが重要だ」と語った。しかし仏政府はルノーを通じて日産に影響力を及ぼしたい立場。一方の日本政府は規模や収益で劣るルノーに日産が支配される「ねじれ」の解消を目指す日産側を支持する構えで、両政府の水面下での駆け引きは始まっている。
「(ゴーン容疑者が)日産とルノーを統合しようとしていたことを懸念していた。ゴーンとマクロン(仏大統領)は以前は仲が悪かったが、最近はそうではないと聞いていた」
日産がゴーン容疑者の会長職を解任した22日夜、日本政府幹部は打ち明けた。
今回の解任は役員報酬などをめぐる不正が理由だが、ゴーン容疑者が日産とルノーの統合を推し進め、日産経営陣が危機感を募らせたことも引き金になったとされる。
日産社内で独裁者のように振る舞っていたゴーン容疑者だが、仏政府との関係は重要課題だった。ルノーの大株主であり、人事への影響力もあったためだ。ルノーはかつて国営企業で、経営や雇用問題は政治的色彩を帯びる。日産車の生産がルノーの工場に移管された際も雇用を優先する仏政府の意向が指摘された。
2015年には当時、経済相だったマクロン氏がルノーと日産に合併を迫った。その時は、ゴーン容疑者は日産の「防波堤」としてマクロン氏と対立し、介入を阻止した。だが今年、ルノー最高経営責任者(CEO)の続投を認めた際、仏政府の出した条件がルノーが有利な形での統合だったとささやかれる。
ゴーン容疑者が退場したことで、両社の提携は政府の思惑も交じり、緊張の度合いを高めている。(田村龍彦)