視点

ゆうちょ銀の限度額見直し大詰め 説得力欠く資金シフト懸念

 □産経新聞編集委員・福島徳

 日本郵政グループのゆうちょ銀行の預入限度額の撤廃・引き上げをめぐる論議が大詰めを迎えている。郵政民営化法に基づき、民営化の進捗(しんちょく)状況を検証する政府の郵政民営化委員会(岩田一政委員長)は来年4月の実現に向けて年内に結論を出したい考えだ。ただ、ゆうちょ銀への資金シフトを懸念する地方銀行など金融業界の反発を背景に金融庁は見直しに慎重姿勢を崩しておらず、ぎりぎりの調整が続いている。

 日本郵政グループは国営時代の名残もあり、いまなおさまざまな制約が課せられている。ゆうちょ銀の限度額もその一つだ。一般の銀行の普通預金に当たる「通常貯金」や定期預金に相当する「定期貯金」などがあるが、現在、その限度額は合計で1300万円となっている。

 民営化委では、限度額について「民営化の進捗に応じ段階的に緩和していくべきものと考える」との方針を示しており、2016年4月に、25年ぶりに限度額を1000万円から1300万円に引き上げた。

 それでも、日本郵政などは「(他の金融機関が近くにない)地方を中心に退職金などを預けるためには不十分との声が根強い」などとして、顧客の利便性の観点から通常貯金の限度額撤廃を求めてきた。総務省が民営化委に提出した資料によると、民間企業の定年退職者の平均退職金額は2300万円余りとされる。限度額が1300万円では、その受け皿としては不十分だと主張する。

 また、ゆうちょ銀では利用者が一時的に限度額を超えた場合、超過分は自動的に振替貯金に移される。同貯金は利子が付かず限度額もない。しかし振替貯金は本来、送金や決済に特化した口座であり、ゆうちょ銀では、同口座に超過分を移した場合、利用者への通知や電話で引き出しを要請するなど、多大な事務負担が発生しているという。ゆうちょ銀幹部は「人件費などで月に20億~30億円かかっている可能性もある」と説明。限度額が撤廃されれば、こうした負担がなくなることに理解を求める。

 だが、銀行業界などは、この限度額見直しに強く反発している。全国銀行協会の藤原弘治会長(みずほ銀行頭取)は記者会見などで「限度額緩和の議論が行われることに反対だ」との考えを重ねて表明している。その理由として、全銀協は「(限度額を緩和すれば)地域金融機関から、ゆうちょ銀に預金がシフトするという意図せざる結果を招きかねない」などと主張する。

 超低金利による利ざや(貸出金利と預金金利の差)縮小などで経営環境が厳しい地銀などから、ゆうちょ銀へ預金が流れ込む資金シフトが起こりうるというのだ。

 これに対し、日本郵政の長門正貢社長は「ゆうちょ銀は海外業務を全くしない、証券子会社も持ってない、信託機能も持ってない、海外拠点はゼロ、融資もできないというところに本当に優先的に預金が集まってくるのだろうか」と強く反論している。

 事実、16年4月の限度額引き上げの際にも銀行側は、資金シフトを理由に反対したが、そうした現象は見られなかった。さらに長門氏は現在のような低金利下では振替貯金と通常貯金の商品性に差はないと強調。通常貯金の限度額を撤廃しても資金シフトなど起こりえないとしている。

 民営化委もこうした主張に理解を示している。岩田委員長は11月の記者会見で「(不正融資問題で)スルガ銀行の預金が相当流出しているが、ゆうちょ銀の貯金残高は減少を続けている」と指摘、スルガ銀から流出した預金がゆうちょ銀に流れていないことにあえて言及してみせた。

 現実には限度額を見直したとしても資金シフトが起こるとは考えにくい。もっといえば、仮に経営に不安を抱える金融機関からの預金流出を防ぐために、ゆうちょ銀の限度額見直しに反対するというのであれば、それこそ本末転倒であり、“利用者無視”とも受け取られかねない。

 銀行などに求められるのは、いつまでも説得力の乏しい資金シフトの懸念を主張するよりも、金融庁が求める「顧客本位の業務運営」に沿って、魅力的な商品やサービスを開発し、利用者の利便性向上に努めることだろう。

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