ゆうちょ銀、大量の貯金の運用手法は 政府関与残り前途多難

記者会見する郵政民営化委員会の岩田一政委員長=26日午後、東京都千代田区
記者会見する郵政民営化委員会の岩田一政委員長=26日午後、東京都千代田区【拡大】

 ゆうちょ銀行の預入限度額に関する郵政民営化委員会(岩田一政委員長)の提言は調整が大幅に遅れ、当初、岩田氏が表明していた「(限度額の)撤廃」から「倍増」に後退した。親会社の日本郵政は今後、限度額の撤廃を求める考えだが、ゆうちょ銀は法人向け融資ができない。大量に抱え込んだ貯金を国債や株式などでどう運用するのか、超低金利の中でノウハウの乏しいゆうちょ銀の経営には不安もくすぶる。

 岩田氏は3月時点では、日本郵政の長門正貢社長の要望していた限度額の撤廃に前向きな考えを表明。今春にも撤廃の意見書をとりまとめるとみられていた。

 背景には自民党の影響がある。9月の自民党総裁選出馬を模索していた野田聖子前総務相は、総裁選のアピール材料の意味も含めて撤廃に前向きだった。限度額引き上げは地方での票固めを狙いやすく、自民党もこれまでの選挙公約に盛り込んでいた。このため、来春の統一地方選や来夏の参院選をにらんで年内決着は必須だった。

 しかし、限度額撤廃で民間金融機関の預金がゆうちょ銀の貯金に流れる「資金シフト」を警戒した金融庁や銀行業界から「民営化の道筋が示されていない」と反対論が巻き起こり、調整は難航。一時は、数百万円の引き上げといった銀行業界に配慮した案も浮上するなど曲折をたどった。関係者から「総務省や金融庁などを気にしすぎだ」と岩田氏に対する不満も出た。

 ようやく「倍増」で決着したものの、海外業務や法人向け融資を手掛けていないゆうちょ銀は、預かった貯金を運用して顧客への利子を支払わなければならない。ゆうちょ銀は2015年に株式を上場し、16年4月に25年ぶりに限度額を1000万円から1300万円に引き上げた。

 収益向上を目指し、銀行などからノウハウを持つ人材を受け入れ、日本国債中心の運用を転換。利回りのよい米国債など外国債券の運用を増やした。しかし、外債は為替急変動などのリスクも抱える。

 だが、ゆうちょ銀親会社の郵政株の63%を保有する政府はゆうちょ銀に間接出資する構図。このため、万一、ゆうちょ銀の経営が危うくなれば、税金が投入される“暗黙の政府補償”が残る。

 政府の郵政株の3次売却時期については「ソフトバンクの株式売却時期が12月にずれ込んだため、当初検討されていた年度内は難しいのでは」(郵政関係者)との見方も出る。大型上場となったソフトバンクの株を購入した投資家は、続けて郵政株を購入し難いとみられ、郵政株売却の受け皿が狭まる可能性があるためだ。政府出資が続く以上、ゆうちょ銀の業務拡大に対する民間金融機関からの批判はやまず、今回の限度額倍増後も経営の前途は多難だ。(大坪玲央)