“タテ割り業務”の旅館とは大違い 「星のや」が客のワガママに即答できる理由 (1/3ページ)

 東京・大手町にある高級旅館「星のや東京」。運営の星野リゾートは、この施設を「進化した日本旅館」と呼ぶ。玄関で靴を脱ぐのは旅館風。ただしスリッパはない。一方、スタッフはマルチタスクで動いており、お客の難しい要望にもその場で答えられる。「星のや東京」の新しさを、ノンフィクション作家の野地秩嘉氏がリポートする――。

東京都・大手町にある「星のや東京」(撮影=石橋素幸)

東京都・大手町にある「星のや東京」(撮影=石橋素幸)

スリッパ、室内履きは用意されていない

 星野リゾートが運営する「星のや」と名の付いた施設は6つ。

 軽井沢、京都の嵐山、竹富島、富士河口湖、インドネシアのバリ島、そして、都心の大手町にある。いずれも高級リゾートで、グランピング施設もあれば日本旅館もある。

 大手町にある「星のや東京」は進化した形の日本旅館だ。星野リゾートの施設を代表する、おもてなしの現場である。

 星のや東京は通常の旅館のような木造平屋建てではない。2016年に竣工した地下2階地上17階の独立した建物で、全84室。スタッフは約150名(18年10月現在)。最上階には露天風呂付きの天然温泉がある。

 1階の入り口は玄関と呼ぶ。エントランスではない。青森産ヒバ材の大きな扉を抜けると、三和土と上がり框(かまち)があり、そこで靴を脱ぐ。素早く下足番が出てきて、靴を下駄箱に収納してくれる。スリッパ、室内履きは用意されていない。畳の感触を足の裏で感じるためだろう。そうして歩いていき、フロントまでのエレベーターに乗る。エレベーターの床面もまた畳敷きだ。エレベーターを降りると、フロントまでは畳もしくは栗材でできた白木の床を歩いて行く。部屋までのアプローチも畳だ。

部屋にあるのは浴衣ではなく着物

 部屋に入ると、畳の上に低床のベッドと座卓がある。窓にカーテンはなく、和紙の障子が外の景色の影を淡く映し出す。壁紙はやわらかな鳥取和紙だ。つまり、全体は和室そのものである。

 ただ、水回り部分は機能的な洋風の造りだ。浴槽、シャワーブース、ウオッシュルームはガラス張りの空間となっている。和室のなかに洋風の水回り設備があるのだが、ちぐはぐな和洋折衷ではない。あくまで和の美意識で統一してある。

 時計はなく、生花や絵は飾っていない。室内に置いてあるのは浴衣ではなく着物だ。外国人でも着崩れすることなく、簡単に着られるもので、大手町を歩いても無作法になるものではない。むろん、館内はどこでも着物姿で歩いていい。天然温泉にも行けるし、ダイニングにも入っていくことができる。

「日本に来たから日本旅館」ではない