とはいえ、植物が分泌した天然ゴムが原料なのだから、当然劣化もする。長期保管では変形もする。新品に履き替えた瞬間にしっとりとなめし革を踏んでいるかのようにしっとりとし、真円が復活するのはそんな理由によるのである。
以前あるタイヤ開発者がこう言っていたことを思い出した。
「今年のタイヤはいいですよ。東南アジアの天然ゴムを原料としているのですが、雨期も乾期もゴムの生育に適した天候でしたからね」
まるで米屋の大将が、コシヒカリやササニシキを勧めるかのように製品を褒めたのだ。
タイヤはけして安価なものではないから、減ってからではないと交換する気にはなれない気持ちも理解できる。だが、産地の天候によって味が異なり、保管状態によって舌触りが変化するようなことがタイヤにも起こっているとなると、できれば無理をしてでも頻繁に新品タイヤに交換したくなるものだ。
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【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちらから。
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