あるいは重量物は、マシンの重心点に限りなく寄せるのが理論上の理想である。マシン設計者は、1kgですらも理想のウエイトバランスを求める。60kgも80kgもあるドライバーが、シートアジャスターでいちいち前後に移動されてしまっては、速くは走れないのである。
だから僕らはマシンに乗り込む時に、こんな手順を踏む。
クルマに歩み寄る。
ドアノブに手をかける。
足を踏み入れる。
ドライビングシートに腰を下ろす。
そしておもむろに、シートライドアジャスターに指をかけるのではなく、ペダルスライダーを操作するのである。これがレーシングマシンを走らせる時の儀式である。
右からアクセル、ブレーキ、クラッチ、そしてフットレストの4枚のベダルは(最近2ペダルのマシンも少なくない)、一枚の大きなプレートにくくりつけられている。そのプレートごと、前後にスライドするのである。慣れるまでは不思議な感覚である。