遊技産業の視点 Weekly View

遊技業界とAIの関わり

 スパイキー代表取締役・栢森秀行

 世の中AIがブームだが、私に言わせるとこの数年で劇的に進化したのは機械学習であって、AIと呼べるものではないと思う。私は情報工学出身で数値解析による近似解の解法やネットワーク理論の検証などの論文を書いた経験があり、前職でネットワークサービスを複数立ち上げた。情報工学のプロではないが素人でもないと思われるので、あえて言わせていただきたい。

 もともと多重ネットワークで結んだ無数のパラメーターを解析的手法で多数のサンプルに対して収束させれば学習的に近似解を導き出せるとの理論は20年以上前からあったが、技術的な壁にぶつかり停滞していた。これについて、パラメーターをランダムに固定化し過学習を起きにくくした改善が意外とうまくいき、FPSゲーム用の3Dビデオチップで進化した超並列プロセッサが演算能力を飛躍的に向上させた結果、いまの時代に花開いた技術であると思う。これに目を付けたのがグーグルで、この技術が彼らの環境にうまくはまり、機械学習を機械翻訳や自動運転に代表されるソリューションとして実用的なレベルにまで進化させた。

 しかし、技術を知らない人から見ると、コンピューターが知性を持ったように勘違いしがちだ。あくまで逐次処理システムが指示されたとおりに動作しているだけで、知能と呼べるものではない。多数の人員と演算能力を用いて慎重に教育されたビッグデータによる機械学習の結果が実用的になっただけである。

 遊技業界に対しても以前、フーリエ変換で周波数解析を行い各パチンコ台の明日の特賞回数を当てるという提案をしてきた会社があった。確率論を知らない社員が導入の検討をしていたので理論上ありえないと止めたことがあったが、商売しか考えていないコンピューター会社の提案をうのみにするのはやめたほうが賢明だ。この例にとどまらず、業界関連企業で多くの資金が不可能なゴール設定と詐欺的な開発会社のために浪費されている恐れがある。

 機械学習の研究自体は効率的な業務改革を成し遂げるため、業界の発展に必要なことだと考えているが、「何に使うか」については、技術的な限界を知った上で取り組む必要がある。

【プロフィル】栢森秀行

 かやもり・ひでゆき 1968年大阪府生まれ、愛知県育ち。京都大学大学院情報学研究科修了後、ダイコク電機入社。SIS分析の拡充、CR事業立上げなどを行い2012年代表取締役社長に就任。退任後転職し18年からスパイキー代表取締役。

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