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ウイルスが宿主細胞の翻訳装置を乗っ取る仕組み (1/3ページ)

 □理化学研究所 生命機能科学研究センター 翻訳構造解析研究チーム チームリーダー・伊藤拓宏

 ■ウイルスが宿主細胞の翻訳装置を乗っ取る仕組み

 C型肝炎ウイルス(HCV)が引き起こすC型肝炎は、肝がんにつながる重大な病気である。1本鎖RNAをゲノムに持つHCVは、感染した細胞内で自身のRNAを宿主の翻訳装置であるリボソームに読み取らせ、ウイルス増殖に必要な多数のタンパク質を効率良く合成する。これまでに、ウイルスタンパク質の効率良い合成には、HCVのRNA配列に存在する「IRES」と呼ばれる領域が寄与していることは分かっていたが、IRESがどのように翻訳効率を向上させているかは謎であった。

 今回、理研を中心とする共同研究グループは、クライオ電子顕微鏡による立体構造解析や蛍光顕微鏡による1分子観察などの最先端の計測技術により、ヒトタンパク質を合成している最中のリボソームの40Sサブユニットに、HCVのIRESが結合し、次に始まる翻訳反応でHCVゲノムを優先的に読み取らせていることを明らかにした。この乗っ取り機構は、HCVのみならずその近縁のウイルスでも保存されていると考えられ、ウイルスの感染力の源となっているといえる。

 今後、IRESとリボソームの40Sサブユニットの相互作用を阻害する薬剤を開発できれば、効果的な抗ウイルス薬になると期待できる。翻訳は、生物が持つ最も基本的な反応の一つだが、従来は見過ごされてきた新しい翻訳機構や翻訳制御機構が潜んでいる可能性がある。今後の研究によって、それらの機構が明らかになるものと考えられる。

【プロフィル】伊藤拓宏

 いとう・たくひろ 2001年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、博士(理学)。ハーバード大学医学校博士研究員、東京大学大学院理学系研究科助手、理化学研究所ユニットリーダーなどを経て、19年4月から現職。

 ■コメント=構造生物学を手法の軸にしながら、多角的に翻訳のメカニズムを解明したい。

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