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第33回先端技術大賞記念講演(2-1)次世代高速計算機 「量子コンピュータ」はなぜパワフルか (2/2ページ)

 並列計算でスピードアップ図る

 この1ビットの情報が0なのか1なのかを判定するには実際に測定してみるしかない。測定すると0か1に決まる。この瞬間に量子力学的な性質を失う。しかし、測定しなければ識別不能性が働いているので0と1を重ね合わせたままの情報が維持される。あくまでも、1つの情報の中に2種類の情報が入っている状態であることになる。これを2ビットで考えると、「00」「01」「10」「11」の4つの情報が1つの情報として重ね合わせられ、測定をするとどれか1つに決まる。普通の情報は一度0と書いてあると、何回みても0は0で、突然1になったりはしない。

 しかし、量子力学的な情報では、測定すると、あるときは0が、別のときは1が見えたりする。つまり、それぞれ2分の1の確率で0、あるいは1が見える。同様に2ビットの場合には、4つの情報が重ね合わされて1つの情報を作っていて、測定するとどれか1つの情報に決まる。この原理は、どんなに沢山の情報があっても同じように働く。したがって、どんなに沢山のビットがあっても1つの情報として、まとめ上げることができる。このようなビットを用いた計算では、重ね合わさった多数のビットを含む情報を入力する。その後、量子力学的な方法を使って計算し、最終的な結果を導き出して、測定すると、それが何であるかがわかる。その答えが正しければ、量子コンピュータがうまく働いたということになる。

 ここで大事なのは、重ね合わせの情報はあくまでも1つの情報として取り扱うことができるということ。1回の計算を行うと、中にたくさんの情報が入っているので、これらの情報に対しいっぺんに計算を行うことができる。これが量子コンピュータの計算の特徴であり、いわば量子コンピュータの計算は自然な「並列計算」になっており、その結果として計算のスピードアップを図ることができる。

【用語解説】量子コンピュータ

 量子力学における重ね合わせを利用して、超並列計算を実現するコンピュータ。従来のコンピュータではデータの最小単位(ビット)が「0」か「1」のどちらか一つの状態をとっており、ビットの組み合わせで情報が表現される。これに対し、量子コンピュータは天文学的な時間のかかる因数分解の問題などを数時間で解くことができる量子アルゴリズムが開発されており、超高速計算が可能になると考えられている。

【プロフィル】樽茶清悟

 たるちゃ・せいご 1953年生まれ。工学博士。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。日本電信電話公社 (現NTT)基礎研究所研究グループリーダー、ドイツ・マックスプランク固体研究所客員研究員、オランダ・デルフト工科大学客員教授などを経て、東京大学大学院理学系研究科教授、同工学系研究科教授。2013年理化学研究所創発物性科学研究センター量子情報エレクトロニクス部門長、18年から現職。愛媛県出身。

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