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なぜ奈良は京都や大阪に比べてガラガラなのか 巨大な空洞を守る熱い思い (2/3ページ)

 ただし、奈良の市民は同時に、この巨大な空洞を守ろうともしてきました。その始まりは、幕末。何の建造物も残っていない平城宮跡の、保存運動が始まったのです。これは、かつての都の中心地を保存したい、という奈良の人々の熱い思いに端を発したものでした。

 以降、今日に至るまで、商業施設や鉄道や道路の建設計画が持ち上がるたびに、市民は議論し、この空洞を残してきたわけです。

 市民が決断しさえすれば、平城宮跡にビルを建てることだってできます。商業施設を増やせば、そのぶん経済効果も期待できる。ところが、平城宮跡を潰したら奈良はアイデンティティを失ってしまいます。だから、苦渋の決断で街の発展を諦めるわけです。文化財とともに生きていくという街の苦しさと言えるでしょう。

 自然と文化財を生かした街づくり

 これを悲観する人もいるでしょうが、私はむしろ、この空洞こそが奈良の市民の誇りであり、これからの街づくりに欠かせない重要な要素だと考えています。なぜなら、21世紀においては、大都市を除いてすべての街は、自然と文化財を生かした街づくりになっていくからです。現に、日本のほとんどの街はその方向にシフトしています。

 そういった視点でもう1度奈良の街を見つめ直してみると、史跡や歴史的遺産がたくさんあるうえに、駅から東に10分も歩けば奈良公園の鹿が歩いている。さらに10分歩けば、春日山の原始林を見ることができます。その意味では、奈良は、日本の先端。これからの街づくりを考えるヒントがたくさんある街なのです。

 日本のほとんどの都市は、こうした、自然と文化財を生かした街づくりにもうシフトしてきています。世界一速い鉄道、世界一高性能の機械、世界一のシェア、など、世界一を目指そうというアイデンティティは、今も当然あります。ところが、その価値観のなかでは、多くの都市や人間は、0.01%の成功者と、99.99%の敗北者に分かれることになってしまいます。それでは世の中そのものがうまくいくはずがありません。

 日本は今、世界一を求める志向から、世界でひとつを求める方向へと舵を切り始めている。かけがえのなさというものに集約されていった結果、能や狂言、歌舞伎が、無形文化遺産になった。さらに、俳句と短歌も無形文化遺産にしようという動きがある。そのほかに、和食も世界文化遺産に登録されました。

 私が万葉集研究の世界に飛び込んで40年近くなりましたが、文化財の国内指定や世界遺産指定にこれだけ日本人が熱中するようになったのは最近のことです。今や、歴史遺産や自然の活用のほうが日本人の関心事になっているわけです。より速く、より大きくではなく、すでに物の深みや芸術というものが街づくりの中心となっているのです。

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