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なぜ奈良は京都や大阪に比べてガラガラなのか 巨大な空洞を守る熱い思い (3/3ページ)

 持ち運べないから、大仏には価値がある

 それから、奈良には東大寺の大仏もあります。先ほど挙げた「奈良には、何も残っていませんよ。みんな、京都に持ってゆきましたから」という奈良の人の言葉には、こんな続きがあるんです。「大仏さんは持って行けへんかったでしょうけどなぁ」。

 奈良時代最大の公共投資は、大仏建立でした。現代では、国が税金で道路をつくったり、橋を架けたりしますよね。それと同じように、1200年程前の人々は、大仏をつくったのです。

 一説によると、東大寺の大仏と大仏殿の創建時の建造費は現在の価格で約4657億円。莫大なお金をかけたことになりますが、現在もこの大仏のおかげで、奈良の街には多くの観光客が訪れているわけです。1200年以上も稼ぎ続けられるなら、十分元を取ることができる。そういう公共投資が今、本当になされているのでしょうか。

 奈良の大仏の特別なところは、持ち運びができないことです。たとえば絵画などの作品は巡回したり、郷土料理も各地で再現したりすることができます。でも、奈良の大仏は、そこでしか体感できない。だから、人を呼び寄せることができる。そして、持ち運びができないがゆえに、そこにあり続けることで、歴史を刻んでいくことにもなる。

 大仏や“偉大なる空洞”のように持ち運びのできないものは、文化となり、その土地自体に大きな意味を与えることになるのです。


 上野 誠

 奈良大学文学部教授

 1960年、福岡県生まれ。國學院大學大学院文学研究科博士課程満期退学。博士(文学)。万葉文化論の立場から、歴史学・民俗学・考古学などの研究を応用した『万葉集』の新しい読み方を提案。『「令和」の心がわかる万葉集のことば』など著書多数。


 (奈良大学文学部教授 上野 誠 構成=吉田彩乃 撮影=熊谷武二)(PRESIDENT Online)

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