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八村はNBA日本戦略の柱 高額年俸を可能にした独占契約

 NBA(米プロバスケットボール協会)ワシントン・ウィザーズの八村塁が文字通り、コートで躍動している。開幕戦のダラス・マーベリックスとの試合は14得点、10リバウンドと最上のデビュー。26日までのアウェー3試合では連続2桁得点を記録、ドラフト1巡目にふさわしい活躍をみせた。(産経新聞客員論説委員・佐野慎輔)

 「少しずつチームにフィットしてきている。体はきつかったが、メンタルはしっかりついていけた。これから、いいケミストリー(化学反応)をつくっていけたら…」

 30日(日本時間31日)はホーム開幕戦。地元ファンならずとも期待が膨らむ。

 財政変えた独占契約

 八村が6月のドラフトで9位指名された際、4億5000万円以上という年俸に目をむいた。NBAの選手年俸はプロスポーツ最高峰である。2018~19年の平均年俸は約715万ドル。MLB約450万ドル、アイスホッケーのNHL約310万ドル、アメリカンフットボールNFLの約270万ドルと比べると一目瞭然。トップ選手ともなれば軒並み3000万ドルを超える。1位のステフィン・カリー(ゴールデンステート・ウォリアーズ)に至っては、なんと年俸3746万ドルだ。

 なぜ、NBAは高額年俸での契約が可能なのか。

 かつてNBAは、米4大スポーツのなかでもMLB、NFLの後塵(こうじん)を拝していた。ポジションを押し上げたのは、ウォルト・ディズニーおよびタイムワーナーの2社と交わした独占放送契約である。2016~17年シーズンから9年間、総額240億ドル、年平均26億6000万ドルという大型契約がNBA財政を大きく変えた。

 「見せる」戦略を追求

 加えて、NBAの巧みな経営戦略を見逃せない。試合の面白さを追求するために「サラリーキャップ制」を設けるなど徹底した戦力均衡策を導入。どのチームにも優勝の機会を与え、試合の前後、クオーターの合間にはショーの要素を取り入れて「見せる」ことを追求する。

 そして多様性の確保。欧州や中南米出身選手にも実力に応じて平等に機会が与えられ、ヒューストン・ロケッツで活躍した中国出身の姚明はトップ選手となり、いま八村が後を追う。米国出身以外の選手の活躍がNBAの国際的な人気拡大に貢献していることはいうまでもない。われわれはFIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップの盛況からサッカー人気が高いと思いがちだが、世界の競技人口ではバスケットボールの4億5000万人に対し、サッカーは2億6000万人にすぎない。NBAはこの競技人口を背景にグローバル戦略を仕掛ける。

 オフシーズン、世界各地で行う試合に加え、「Basket Without Boeders(BWB)」と呼ぶ19歳以下の選手を対象としたキャンプは若年層の取り込みとブランド浸透のミッションである。世界をアジア、欧州、アフリカ、米大陸に分け、1年に2地域で実施。スター選手を投入し未来のNBA選手のスキルアップとともに、地域の社会課題に対応する。

 活動はソーシャルメディアによって世界中に拡散される。これもNBAの戦略の一環だ。先ごろ、香港のデモ問題でのロケッツのオーナー発言が物議を醸し、中国から締め出される事態になった。しかし、NBA側に動揺はない。中国での浸透に揺るがぬ自信をもっている。

 日本では2017年、楽天とパートナーシップ契約を締結。さらなる浸透を図る。八村は日本戦略の大きな柱となった。

【プロフィル】佐野慎輔(さの・しんすけ) 1954年生まれ。富山県高岡市出身。早大卒。産経新聞運動部長やシドニー支局長、サンケイスポーツ代表、産経新聞特別記者兼論説委員などを経て2019年4月に退社。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。著書に『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田端政治』『オリンピック略史』など多数。

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