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原発事故の風評被害に苦しみ、大雨で再度「被災」…農家たちの苦闘

 台風19号や21号に伴う記録的な大雨は、収穫を控えた全国各地の農作物に甚大な被害をもたらした。平成23年の東京電力福島第1原発事故後、風評被害に苦しんだ福島県では、出荷がようやく軌道に乗り始めたところで再び壊滅的な打撃を被った人も。自然の猛威に翻弄されながらも、農家たちはボランティアの支援も受けながら、懸命に前を向こうとしている。

 「二重」の苦しみ

 「辺り一面が湖のようで、言葉が出なかった」

 夏井川の堤防が決壊し広範囲が浸水した同県いわき市の小川地区。ネギ農家の草野城太郎さん(45)は、自らが手がける自宅近くの農業用ハウスを高台から見下ろしたときの様子を、こう振り返る。

 押し寄せた濁流は、草野さんがハウスで青ネギを栽培している約1300坪の敷地を丸ごと飲み込んだ。一番高いところで約2・3メートルの高さまで冠水。苗や出荷前のネギなど、ハウス内にあった約10トンの作物はすべて流出した。

 すべて復旧するには数年かかる見通しで、再建費用なども含めて被害額は約2億円に上る。これまで年間約50トンのネギを出荷してきたが、復旧しなくては栽培も出荷もままならない。

 市内で唯一、ネギを水耕栽培しているという草野さんの頭をよぎったのは、原発事故の苦い記憶だった。風評被害もあり思うように商品を出荷できず、自分が育てたネギが並んでいたスーパーなどの小売店の棚には一時、市外で収穫されたネギが並んでいた。

 「一度失った棚のスペースを取り戻すのが難しいのは、散々味わった。今回も同じことになるのか…」。深いため息をついた。

 リンゴ、イチゴも

 大雨による農作物の被害は、東日本の広範におよぶ。中でも最も被害が深刻なのは、収穫の最盛期を迎えていたリンゴだ。

 千曲川の堤防が決壊し浸水した長野市の国道18号は「アップルライン」と呼ばれ、両側には多くのリンゴ農園や直売所が並ぶが、今回の水害で畑や直売所が軒並み泥水に漬かった。

 沿道で直売店を営む友田忠さん(74)は「リンゴがおいしいのはこれからなのに」と肩を落とす。長野県によると、風で果実が落下したのと違い、果樹が軒並み水を被っているため、今後、病気が発生するリスクが高いという。

 全国一の収穫量を誇り、「とちおとめ」で知られる栃木県のイチゴも、クリスマスシーズンを控えたかき入れ時だった。思(おもい)川(がわ)の氾濫でビニールハウスが全半壊した同県鹿沼市の大越正啓さん(69)は「今年はもう出荷は無理」と諦めの表情。長男の秀紀さん(41)も「年内に出荷できないと収入が厳しい。今後のことを考えるのも怖い」と険しい表情を浮かべた。

 阿武隈川の氾濫で冠水した福島県伊達市梁川町でも宍戸里司さん(67)のキュウリ栽培のビニールハウス3棟が深さ約1・5メートルまで水に浸かり、出荷間近のキュウリのほとんどが駄目になった。「収入が減るのは明らか」と肩を落とした。

 ボランティアが支援

 再建への道のりは容易ではないが、救いの手もさしのべられている。

 11月2~4日の3連休には、被災地に多くのボランティアが集結。長野市のボランティアセンターにも朝から多くの人が集まった。所沢市の男性(56)は「リンゴの木や田んぼが泥にまみれ、元の生活が戻るまで当分かかるだろうと思い、また来た」と話した。

 いわき市の草野さんの元にも有志のボランティア約700人が全国から駆けつけ、復旧作業に汗を流した。このほど、400坪分のハウスから泥を搬出する作業が終了。運び出した泥は、土嚢(どのう)約7千袋分に相当したという。

 ボランティアの内、友人など面識のある人は1割ほど。多くは草野さんの青ネギのファンだったという。「当面は生活圏の復旧が最優先だが、ウチのネギを食べたいという思いには必ず応えたい」。草野さんは力を込めた。

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